1328 星暦558年 桃の月 23日 久しぶりの手伝い(7)
「フォラスタ文明の紋様とか遺跡から発掘された魔具っぽい物って何か解明できたのか?」
王都に戻り、礼服の状態を確認したところ特に穴は開いていなかったのでアイロンかけだけパディン夫人に頼んで魔術院に来て、アンディを捕まえて尋ねてみた。
結局、広場の大地の精霊に聞いても特に森の中にばらばらと規則的?かも知れない感じに生えている巨木に刻まれた紋様についても特に覚えていないって返事だったんだよなぁ。
ちなみに紋様を刻んで術の補佐に使っているっぽい木に何か条件があるのかと尋ねたら、一応樹木霊と最初に契約に近い約束をしていないとずっとは効果が続かないぞと言われた。
樹木霊に何も言わずに紋様だけ刻んだ場合は、刻んだ人間が気に入ったとか、単に気が向いた場合だけ機能する紋様になり、刻んだ人間がその場を離れたら効果が消えることが多いだろうとの話だ。
そういえば、それに近い話を最初にここに来た時に蒼流に聞いたかも?
シェイラに森の中のそこそこ大きな巨木にも紋様が刻まれていると知らせたら、もっと早く教えて欲しかった!と怒られたが、『ツァレスが報告書をほっぽりだすと思ったし、それを防ぐために秘密にしておいて調べるのを我慢するとなるとシェイラも落ち着かないだろう?』と言ったら微妙な顔をされてお説教が止まった。
で、お詫び代わりに魔術院から研究の進捗状況に関して情報を抜き取ってこいと言われたんだが。
「やっぱ樹木霊と意思疎通しなきゃいけないっていうのはネックでね。
精霊と契約している魔術師って基本的に売れっ子だから研究職をやっているのは殆どいないし、稀に契約している研究が好きなのがいてもそのうち色々と精霊に関して実験をしようとして見捨てられるみたいで」
アンディが顔をしかめながら教えてくれた。
おやま。
確かに精霊ってあちこち行ったり色々新しいことをするのが好きそうな場合が多いからな。
ノンビリ風や大地を楽しむのも居るが、少なくとも建物の中でせこせこと試行錯誤しながら研究するのってあまり楽しまなそうだし、それに協力を頼まれたら更に嫌われそうだ。
そう考えると、俺とシャルロが清早と蒼流から見捨てられないのは時々気分転換に旅行に行ったり沈没船探しに行ったりしてるのも大きいかも?
まあ、シャルロはあれだけ溺愛しているんだから、研究にのめり込んで色々と手伝ってくれと言われても蒼流は嬉々として手伝いそうな気もするが。
「う~ん。
せめて、実験に使えるような大きな木を何本か確保してあるのか?
何だったら樹木霊との交渉にだけ短期間ならば清早に手伝ってもらうのも可能かもだが」
木の配置とか種類とか大きさとか樹齢とか、色々と条件がるだろうから、一回実験するだけで何か解明できる可能性はあまり無さそうな気がする。そうなると協力も一回で済む可能性は低いかも。
パストン島の未開拓地域の森にでも紋様を真似て刻んでみるのもありかな~とも思ったのだが、経過観測とかを俺たちがやる暇も興味もないから、王都近辺で魔術院なり王宮研究所の人間なりが色々と調べてくれるなら協力するのも吝かではないんだが。
折角部分的にでも文字通り生きている遺跡だからな。
何か解明出来たらシェイラも喜びそうだし、実用性があったら遺跡発掘の予算が増えそうだ。
「いや、それも厳しいな。
一本の大木だけに刻んで何とかなる紋様だったら王宮なり魔術学院なりに大きな木があるからそれを使わせてもらうのも可能だろうが、複数の巨木でそれなりの配置や距離が必要となると森に入って実験しなきゃだろ?
研究職の人間が森の中に入って色々調べるなんて嫌がるだろう。
担当している奴らは誰も彼も机上の空論的に色々議論して自慢げに持論を発表してくれたが、それを実証しようとしないから今じゃ研究そのものが殆ど行われてない」
アンディがすまなそうに言った。
アンディのせいじゃないんだが。
俺も昔は森の中とか絶対に入りたくなかったからなぁ。シェイラとちょくちょく散策に行くようになって大分と慣れたが。
そうか、魔術院の方では研究そのものが実質打ち切られているのか。
「王宮研究所の方は?」
あっちだったら森の中の調査とかは何だったら軍の連中にでも押し付けられそうな気がするが。
「あっちの情報は研究が終わるまでは入ってこないからなぁ。
止めたという話な聞いていないから、誰かが細々と続けているかも?」
アンディが肩を竦めながら言った。
そっかぁ。
こっちは歴史学会の方で聞かなきゃダメそうだな。
王宮研究所と魔術院って研究に関してはちょっとライバル的な立場だから、そっちはアンディや俺が研究所の方に直接聞いても教えてもらえないだろう。
こうなったら年初のパーティで情報収集だな!
影の薄い王宮研究所。
一応魔術に研究部門もあります。
影が薄いけどw




