1327 星暦558年 桃の月 22日 久しぶりの手伝い(6)
昼食をシェイラと食べながら、ツァレスの進捗状況に関して尋ねる。
「報告書はもうそろそろ終わりそうか?
転移門を使うにしても、そろそろ提出しないと不味そうだよな?」
まあ、どうしても遅れた場合はこっそり年初のパーティ前に担当の人に渡している年もあるらしいが。
それをすると予算の割り当てが遅れて、しかも減額気味になるらしいからシェイラは頑張ってツァレスの尻を叩いている。
「大体終わったってところね。
今、ツァレスが最終仕上げをしている横で私が抜けや誤記がないかの確認をしている所よ。
明日にでも王都に行くことになると期待しているわ」
シェイラが安堵の溜め息を吐きながら言った。
「お、そうなんだ?
じゃあ、明日の夕食はどこか王都の食事処で取るか?」
良さげな店の予約が取れるか知らないが、今からちょっと王都に行って何軒か回ってもいいかも?
とは言え、一応紋様付き巨木の配置図とかはそろそろ見せた方が良いんだろうが。
でも王都に行く前に見せたら、あちらでゆっくりする暇もなく戻ってくると言いそうなんだよなぁ。
敢えて戻ってくるまで言わないとそれはそれで恨まれそうな気もするが。
中々微妙だ。
年初も暫くこっちで過ごしていいか、アレクとシャルロに相談してみるか?
「そうねぇ。
年初のパーティ用のドレスもちょっと手直しを依頼してあるから、それの確認もしたいし、明日は報告書を出した後にちょっと王都の用事を熟しておこうかしら」
シェイラがちょっと考えながら言った。
ドレスの手直しねぇ。
それは同行しなくても良いかな。
歴史学会の総会とその後のパーティはそれこそ使用人のふりでもして地味な服で紛れ込むつもりだし。
「そういえば、ウィルの礼服と靴はちゃんと手入れしてあるの?
虫食いなんてあったら恥ずかしい思いをするわよ?」
そんな俺の考えを見透かしたようにシェイラが尋ねてきた。
「え?
俺は給仕のふりでもして紛れ込もうと思っていたんだが」
給仕のふりをしつつパーティに供される料理をそっと口に放り込むのは慣れている。
「何を言っているの。
私が変なスケベジジイに絡まれたときに、助けてくれないつもり?
給仕じゃあ出来ることなんて限られているわよ?」
シェイラが呆れたように言ってきた。
え~?
シェイラだったらスケベジジイなんて簡単に撃退できるじゃないか。
でもまあ、頼りにしてくれるっていうならこの場合はちゃんと横にいるべきかな?
うっかり歴史学会の重鎮とかと意気投合して『相手がいないなら』とか要らぬ気を利かされて見合いなんぞ勧められても困るし。
「ちょっとじゃあ家に帰ってパディン夫人に確認してもらうよ。
虫除けの術はしっかりかけてあるから大丈夫だと思うが」
礼服と靴を仕立てた時の苦しみの再現は出来るだけ先に延ばしたいから、礼服も長く使うつもりなのだ。
あまり流行りや廃りのない伝統的なスタイルを選んだので、体形さえ変わらなければあと20年は使える筈。
「ちなみに明日、報告書を提出してドレスとかの確認をした後はどうするんだ?
どこかに行く気があるなら付き合うが」
東大陸のジルダスやゼリッタに行くのもありだろう。
そこまでゼリッタに面白そうな店はなかった気がしたが、シェイラの目で探したらもっと何かあるかも知れないし。
「ちょっと今年は色々とバタバタしていてここの発掘作業に思う存分専念できなかったから、年末の最終日まではここで色々と発掘作業をしたいと思っているの。
折角ウィルも手伝ってくれる気になっているんだし。
良い?」
シェイラがにっこり笑いながら尋ねてきた。
「おう、じゃあ明日だけ王都で夕食って感じかな?
どこか行きたい食事処はあるか?」
予約を獲れるかどうかは知らないが。シェイラだったら何かコネがあって今の時期の前日でも何とかしちゃいそうな気もするけどね。
「ああ、ちょっと知り合いが新しい食事処を開いたの。
そこに行きましょう」
シェイラがあっさり言った。
新しい食事処ねぇ。
そこの開店にも何か『手伝い』をしたのかな?
まあ、取り敢えず。
年末までこっちに戻って来るなら、明後日にでもこの数日の調査結果を話せばいいか。
じゃあ、あとは中央広場近辺の大地の精霊にでもちょっと話を聞く程度かな?
あまり結果に期待は出来ないが。
明日、王都に戻った時に魔術院に寄ってアンディにでもちょっとフォラスタ文明の紋様に関して何か解明できているのか、聞いてみようかな?
歴史学会の方は……シェイラに一応聞いてもらって、何か分かったんだったら後からもう一度戻ってもいいし。
どのタイミングで発見に関して話すか、ちょっと神経戦みたいになってきたw




