1326 星暦558年 桃の月 22日 久しぶりの手伝い(5)
森の中の目についた巨木を確認し終わり、紋様が刻まれている巨木の位置と紋様の詳細を描き出してみたが、特に何も確定的な事は分からなかった。
漠然と何か意味がありそうな配置のものもあるが、意味がありそうと分かったところでそれが何かは分からない。あのサイズの巨木を動かせる訳がないので、配置を変えたら紋様の効果が消えるのかも確認のしようがないし。
というか、効果が現時点でもあるのかすら不明だからなぁ。
心眼で見ると極微細な魔力の線が巨木から森の中に張り巡らせる様に存在しているように視えるが、それが何の効果を生み出しているのか、俺には分からないのだ。
ふむ。
「なあ清早、この端っこじゃない森の中にちょくちょくある巨木に刻まれている紋様の効果って分かるか?」
清早に尋ねてみる。
『う~ん?
どうだろう?
僕たちが気持ちよく過ごすためのナニカかも?
少なくとも、森の中は気持ちがいいよ』
のほほ~んと傍に出てきた清早がぷかぷかと宙に浮かびながら答えた。
確かに、ここに来る際っていつでも清早が一緒にいるよなぁ。
他の場所だと頼んでいなければ一緒にいるかどうかは気分次第なのに、この森に来るときは大抵傍にいる。
シェイラと散策している時なんかは気を使っているにか姿を消している時も多いが。
森や精霊との共生を大切にしていたっぽいフォラスタ文明なら精霊が気持ちよく過ごせて集まるような紋様を巨木に刻んで何か術を展開している可能性はゼロではないが、精霊たちにもはっきりと分からないとなるとなぁ。
流石に巨木を切り倒すとか、紋様を敢えて破壊して術を中断させて森にいる精霊にとっての快適さが変わるかを確認するのはやるべきじゃあないだろう。
巨木は切り倒したら取り返しがつかないし、紋様にしたって破壊したら元に戻せる保証はない。
修復できない破壊による確認なんて、やろうと言ったらシェイラが激怒するだろう。
多分。
ちょっと逝っちゃった学者だったら確認のためにだったら破壊もしょうがないって言いだすようなのも居るかもだが、折角精霊にとって気持ちが良い環境なのだ。
それを破壊するような実験は提案したくない。
「泉の水精霊か広場の土精霊に聞いたら何か知っているかな?」
もしかしたら術を施す前と後の違いを覚えているかもだし。
『どうだろうねぇ。
かなりゆったりとした術だから、気に入った子から術の補助を頼まれたとか相談されたんじゃない限り、覚えてない可能性が高いんじゃないかなぁ?
まあ、聞いてみたら?』
清早が肩を竦めながら応じた。
ダメ元になりそうだな。
でもまあ、清早に声を掛けて貰わないとこちらに興味がない中位精霊に話を聞いてもらうのも難しそうだから、この際聞いておこう。
シェイラに報告するのが遅れた理由として、色々と頑張ってみたんだって言える方が良いし。
そろそろツァレスの報告書も終わるんじゃないかと思うんだよな。
シェイラによる追い込みも日に日に容赦なくきつくなってきているようだったし。
という事で、まず森の中の泉の方へ行ってみた。
『やっほ~、お久しぶり~』
清早が泉の方へ呼びかける。
『あら、こんにちは?』
水がトプンと持ち上がり、精霊が姿を現した。
普段来ている時は交流していないのかね?
まあ、清早はもっと悪戯好きな若いのと遊ぶのが好きそうな印象だからな。
ここのおっとりしたオバサンっぽい精霊とはそこまで交流がないのかも。
精霊に年齢とか若者・オバサンといった違いがあるのかは知らないが。
「お久しぶり。
ちょっと知っていたら教えて欲しいんだけど、この森の中にぽつぽつ生えている巨木に刻んである紋様って、なんの役割を果たしているのかな?
あれが起動した時の変化とか、作る前に相談されたとか、何か記憶にない?」
水精霊に報酬がわりに多少の魔力を渡しながら尋ねる。
別にこのサイズになったら俺が渡せる程度の魔力なんてあっても無くても大して違いはないと思うけどね。
『どうだったかしら~?
森の環境を良い感じにするためって聞いた気がするかも?
具体的に何をするのか知らないけど』
ちょっと首を傾げながら泉の精霊が答えた。
ふむ?
変な病気が流行らないようにとか、伐採しなくてもいい感じに日光がさすようにとかいった維持用の術なのかね?
それとも雨が続いても土壌が流されないようにする術とか?
「ありがとう、気になっていたから少しでも分かって助かったよ」
土関係の術だったら広場の土精霊の方がよく知っているかもだな。
あっちにも聞いてみよう。
『オバサン?!』
ゴロゴロぴっしゃ〜ん!!
なんてことになったり?




