1325 星暦558年 桃の月 22日 久しぶりの手伝い(4)
「この木は関係なし、と」
今日は昨日から続けて結界用に使われていると思われる超巨大樹から目安を付けておいた巨木を回って紋様を探し、魔力の通った物や通っていないけど元々通っていたかも?と思われるものなどをメモして回っている。
何本かの巨木は単に日当たりや栄養状態が良かったから伸びただけらしく、何の紋様もないのもあった。
取り敢えず、紋様付きの巨木の配置にも何か意味があるのかを確認しようと全部の巨木を調べてからシェイラに話すつもりだ。なので昨日は夕食時に何をやっているのかという話をした際にも大きな巨木を調べて回っているとしか言っていない。
少し待って、ツァレスの報告書が終わってからの方がシェイラも新発見かも知れない情報を聞いて普通に喜べると思うしね。
うっかりツァレスが終わっていない段階で知らせたら、それを餌にツァレスの尻を叩くのに使えるかもだが、誰も彼もが新しい発見を調べたくてソワソワしていて集中力が落ちそうだ。しかもそっと抜け出して『ちょっとだけ』と調べようとするツァレスを見張る手間が増えそうだし。
シェイラにだけこっそりデートをしている顔をして巨木まで連れて行って見せても良いが、やはり紋様なんかに関してはツァレスとかもっと中堅の学者たちの方が詳しいらしいからな。
シェイラの知識は事務手続き系に関しては誰よりもあるが、実際の遺跡に関してはまだもっと経験がある学者たちが調べて議論するのから色々と学ぶ状況なのだと言っていた。
そうなると、ツァレスが議論に加われないと提供される知識量が減るし、ツァレスが適当に報告を仕上げたとして、それをちゃんと確認するためにシェイラだけ書類作業が残っていたらますます悲しいだろう。
という事で。
何も言わずに取り敢えず色々と調べてから、報告だ。
第一、かなり高い位置に刻まれている紋様だから、下からおっさんや爺さん連中に登らせるのはかなり厳しい。
となると俺が浮遊の術で抱えて上まで連れて行かねばならないから、一度に観察できる人員は限られる。皆が色々と議論できるように紋様を書き写しておく方が良いだろう。
一応、間違いがない様に心眼で確認しながら紋様の上に紙を被せてなぞる形で描いているから、正確な模写ではある筈だ。
丁寧に作業しているから余計に時間が掛っているけど。
と言うか、そろそろツァレスの報告書も終わると思うんだよなぁ。
去年は確か、もっと早い時期に終わっていた筈。
俺が魔石を充填させるという餌で急かしていた気がするから、俺が来るタイミングが去年より遅かったからツァレスの報告書完成の時期も後ろにずれたのかね?
責任者なのに、餌がないと必要最低限の報告書すら完了させるのもおぼつかないなんて、ダメだぞ~?
まあ、書類作業が楽しくないというのは共感できるが。
ツァレスも俺たちの会計書類のチェックみたいに、年度ごとの出費の比較とかをしたら面白いかも?
とは言え、遺跡発掘は出費だけで収入は殆どないから、かなり退屈な比較なのかもだが。
去年の年末は東大陸の方へシェイラと一緒に遊びに行ったが、今年は新しい紋様の研究で潰れるだろうなぁ。
一度王都に戻って報告書を提出しなきゃいけないんだし、その際にちょっと王都で散策しつつ美味しい食事でも食べに行ってもいいか。
そんなことを考えながら巨木を調べて回る。
取り敢えず、成長の過程か何かで紋様が切れてしまったとしても、紋様が刻まれた巨木はそれなりに魔力の残滓が残っているっぽいので、全く魔力の残滓が感じられない木は3本目からは完全に無視する事にして、紋様がありそうなのだけを集中して調べている。
似たような紋様がある巨木も多かったが、何本かはどうも全然違う紋様のようだった。
何の為の紋様なのか、分かればもっと面白いのだが。
残念ながら、小型の紋様を魔術回路として再現してもイマイチ上手く起動しないことが多いせいで、フォラスタ文明の魔術は解明出来ている技術が少ないんだよなぁ。
木に刻み込んでその力も利用しているから長続きしているんだろうが、そのせいで長続きしなくてもいいから今だけ機能して欲しくても木に刻まなきゃダメで、しかも普通のそこら辺の木では何かが足りないらしい。
巨木であり、何か他にも条件を満たせば術を起動できるのだろうが、少なくとも俺が昨晩ちょろっと試した紋様は起動しなかった。
もしかしたら複数の巨木の配置も意味があるのかも?
マジで良く分からないからなぁ。
シェイラ達は魔術関連は二の次だし、魔術院は森の中にひっそりと暮らしていた文明にあまり関心は無い。お陰で数百年経っても一部は生き残っている凄い技術なのに、分からない事だらけだ。
誰かちゃんとしっかり研究しているんだろうな??
箱詰めにしてどこかの巨大倉庫に押し込まれてたりw




