1323 星暦558年 桃の月 21日 久しぶりの手伝い(2)
シェイラに森の大樹の中に何かまだ発見されていない紋様などが残っていないか調べてくれたら嬉しいと言われた俺は、まずは遺跡が発見されて発掘チームが色々と働いている区画の傍にある巨木の上から周囲を確認することにした。
という事で。
大樹の根元から浮遊の術を掛けてふわふわと上がっていく。
単に真っ直ぐ上に上がるだけだとうっかり枝に頭をぶつけかねないので、ちょっと貴族の屋敷に忍び込む時に壁を登るような感じでトントンと手と足をつきながら軽く飛び上がって上に登っていく感じで動く。
自力で登る先を決めつつ、術で身を軽くして浮く感じにすれば大体自分の動きを制御できるからね。
一応この大樹の幹に刻まれている紋様に関しては最初の頃に色々と調べたから、想定外な発見はもうない筈。なのでこの幹はそれ程注意深くは確認しない。
とは言え、術を使わなくてもどうにか上がれる高さ程度までしか調べていない。なので体重を掛けられないぐらい細くなった上の方では注意を払って心眼でぐるっと視て回ったが、そんな上の方は最近育った部分なので、当然何も遺跡に関係する痕跡は無かった。
そのまま細くなった幹沿いに上がっていくと、徐々に周囲の木よりも高くなったのか、風が強くなってきた。
ついでに日当たりも良くなって明るい。
更に登り続けて、やっと天辺の枝が見えるぐらいまで登り終えたので、一度止まって周囲を見回した。
「おお~。
やっぱ外周の大樹はずば抜けて大きいな。だが……」
最初に来た時にも森の上空から空滑機でシェイラと一緒に見て回ったが、空滑機だとうっかり風で押されて高度を下げても枝に引っ掛からないようにそれなりに余裕をもった高度で飛んでいたので、外周の巨木7本とこの遺跡中心地にあった一本がずば抜けて大きいのは分かっていたが、それ以外の森の平均的な木よりも大きいが結界に使われたと思われる巨木ほどは大きくない大樹が何本か森の中にぽつぽつと生えているのに気づかなかった。
というか、外周の巨木に気を取られて、そこまでずば抜けていない大樹には目が行かなかったってところかな。
実際に巨木の上から見回すと、角度がもう少し水平になるせいか、外周の巨木ほどではないが平均よりは明らかに背が高い木の存在が分かる。
「取り敢えず、場所を描いて見に行ってくるか」
結局、森全体の人避けの結界にしても、どうやって巨樹を利用して数百年も結界が維持できるようにしたのか、術の詳細は紋様を調べても分からなかったのだ。
森の中にある巨木に更に何か紋様があったとしても、それの役割を解明出来る可能性は低い。
だがまあ、何か分かれば楽しいだろうし、もしかして魔術院の方から誰か調べに派遣されれば、遺跡発掘チームの手伝いがてら魔石の充填とかやるかも知れないし。
年末の間、ひたすらふらふらと遊んでいるよりは何か発見があったという報告が出来る方がアレク達に『何をやっていたの?』と聞かれた際に『シェイラのところでぐだぐだしていた』と言うよりはいいだろう。
何もやることがないと飽きるし。
という事で、方角を確認し、目についた巨木の位置を森の見取り図の中に書き込んでいく。
一通り目についたのを描いたところで、外周の巨木の所にそのまま浮遊で飛んでいき、そこからもう一度内側に生えている巨木の位置と数の確認をする。
「おっと?
ちょっと位置が思っていたのと違うか」
普通なら見ないほど大きいせいで距離感が狂って、思っていたよりも遠かったのが数本あった。
あと、見えていなかったが巨木が他にも数本あったし。
単に日当たりが良くて育って大きくなったのか、元々何かの役割を期待されて遺跡に住んでいた住民たちに育てられたのか、微妙に不明な木も何本かあるな。
まあ、露骨に大きいのを先に調べて何か紋様がないか確認して、中途半端に大きくて判断に狂うのは後から調べよう。どれかに紋様があったら遺跡の一部、無かったら偶然ということにしておけばいいだろう。
さて。
詳細を調べる前に、シェイラを誘ってランチにでも行こうかな。
大樹と巨木の違いがいまいち不明
ここでは深い意味はないと思って下さいw




