1320 星暦558年 桃の月 20日 書類作業(12)
「シェイラって自分の収支とか財産残高の推移とか、ちゃんと定期的に把握して記録しているのか?」
結局、あまりにも大雑把すぎるとシェイラに相談する際に呆れられるかも知れないと思い、直近3か月分だけ金を払って銀行に入出金明細を書き出してもらい、あとは過去7年分の四半期ごとの残高を列挙してもらった。
これで少なくとも最近は銀行の入出金に想定外な変な出費が紛れ込んでいないことを確認し、確認した大体の平均的な毎月の収支から推定した四半期ごとの残高推移が想定を大幅に超えていないか試してみたのだ。
やっぱ旅行に行ったり、沈没船探しなんかをするとちょっと出費が増えたようだった。代わりに突発的な依頼があると収入が増えるしで必ずしも推測通りな残高の動きにはならなかったが、一応記憶を漁って場合にはアレクに確認したところ、大体は説明がつく結果となった。
なんかこう、細かい感想はまだしも何をやったかを記載する日記でもつけた方が良いかも?
アレクは手帳に色々と詳細が書いてあって、毎年の分の手帳を引き出しにしまってあったからぱらぱらとめくって『ああ、その月はXXに行ったな』とか『あの月は呪具探しで軍の手伝いに駆り出されていただろう』とかいった感じで、質問したら直ぐに答えが出ていたんだよなぁ。
中々凄い。
ある意味、金の計算だけでなく、今まで何をやってきたかを思い出す手段としても、あんな感じにやっていることをメモしておくと良いのかも。
毎日の予定はそれ程厳密に管理する必要はないと思うが、何をやったかを大雑把に記録できるような、週ごとの手帳みたいのがあったら薄くて済むんじゃないかな?
というか、毎日ではない毎週の記録に二行程度使う手帳だったら5年分ぐらいで1冊に纏められそうだ。
そんな大雑把な手帳って売っていないかな?
今度アレクに聞いてみよう。
それはさておき。
色々と頑張って自分の資金収支を把握したんだが、いい加減疲れてしまった。
全然把握しないつもりだったらそれはそれで楽だが、ちゃんと把握しようと思うんだったらしっかり細かい記録を取る方が正確で確実そうだから、なるほど横領をする連中が裏帳簿を態々つける訳だと納得してしまった。
「家計簿と事業用の収支記録と、両方しっかりとってあるわよ?
ちゃんとやり方を決めて定期的にやっていればそれ程手間じゃないし」
俺の質問にシェイラがあっさり答えた。
「事業用?
そういえば、あの礼服を作った店みたいなところに助言を与えつつ少し投資しているんだっけ?
金って銀行に預けるだけじゃダメなのか?」
銀行に預けるだけではなくて、幾つかは宝石として手元や適当な場所に隠してあるが。
「金貸し業者になれとは言わないけど、ちょっとした工夫と資金でぐっと事業をよくできる職人や店を見かけたら、助言してそれをするための資金を貸してあげるだけで、面白いしお金が増えるのよ?
銀行に寝かせておくお金なんて、『寝ている』というか『実質仮死状態』じゃない。
経済の中で活かしてこそ、お金は意味があると私は思うのよね」
シェイラが楽し気に言った。
仮死状態な金か~。
とは言え、俺は別に職人や店を見て、『こうやったら更に良いんじゃない?』と助言できるような知識はないからなぁ。
不便そうだからとそれを改善する魔具のアイディアになることはあるが、こっちは工房でやってるから個人的資金をつぎ込む必要はない。
「目利きが出来るなら旅行に行った際に珍しい物や骨董品を買い取ってアファル王国で売るのも良いし。
じゃなきゃ、ウィルだったら良さげな交易船を見かけたらそれに投資するのもありなんじゃない?」
シェイラが提案した。
「別に交易船が良さげかどうかは分からないからなぁ。
そりゃあ、清早の友達の精霊にでも船を見守ってくれって頼めば沈没しないように気を配ってくれるかもだから、船が確実に帰って来るってことでそれなりに儲かるかもだが……食うのに困っている訳でもないのに精霊に金儲けの手伝いをしてくれって頼むのも、気が引ける」
短期間だったらそれなりに珍しいと思ってやってくれるとは思うが。
契約で縛らないならば精霊がいつ飽きるかは分からないから、ある意味長期的にはあまり確実性は無いと言えるかも?
「……確かに?
まあ、お金に困っていないなら、無理に投資しなくてもいいかもだわね。
自分のお金を銀行に預けたままにするなんて考えたこともなかったけど。
だけど、銀行の残高はしっかり把握しなきゃだめよ?
しっかり管理していない口座主だと見たら、銀行の職員とかがこっそり横領することもあるんだから」
シェイラが脅してきた。
マジか。
自分の所で雇っている人間の横領だけでなく、銀行みたいな組織の横領も気にしなきゃいけないのか???
めんどくせ~~~!!
『ご預金が臨終いたしました……』




