1319 星暦558年 桃の月 16日 書類作業(11)
「う~ん……」
部屋にある机の引き出しに適当に突っ込んであった書類の内容を一覧表にした紙を眺めながら、俺を唸っていた。
元々、毎年アレクが年初に残高証明を銀行から取り寄せて毎年の銀行残高の推移を記録してあった工房の口座と違い、俺の銀行残高が去年とか一昨年とかの末にいくらかだったなんて分からない。
最初に口座を開いた時に振り込んだ金額は口座開設の書類の写しに書いてある。
ついでに現在の口座残高も、昨日ちょっと寄って貰って来たので分かる。
が。
ほぼ7年間の間にどういう流れで金が増えて減ったかはなんとも分からない。
沈没船を見つけてオークションをした際に受け取った金額の振り込み明細は何枚かある。これらが金額的には一番大きい。
枚数もそれなりにあるし。
軍部とか国税局から雇われたときに支払われた明細書も何枚か出てきた。
とは言え、考えてみたら何枚かは適当に受け取ってポケットに入れて無くしたとか、工房の方に適当に置いてどこかのファイルの中に紛れ込んでいる可能性もある。
学院長や裏からの依頼には受け取りなんぞない。
まあ、ヤバい依頼の報酬の殆どはそのまま緊急時用にしようと換金しやすい宝石の裸石を買うのに使ったから、銀行残高には最初から関係していない。
とは言え、いくらかはそのまま金貨として部屋とか魔術学院の隠し場所とかに隠したり埋めたりしたのもある。
考えてみたら、緊急時用の金貨や宝石の隠し場所として部屋とこの工房の庭と魔術学院を使っているのだが、もっと増やすべきだろうか。
それこそ、ヴァルージャの森の中にでも少額でも埋めておくのもありか?
とは言え、あそこの場合は転移門が使えなかったら辿り着くのに時間が掛りすぎるからなぁ。
国を捨てて逃げる羽目になる場合だったらあそこから旧ガルカ王国側へ出るというのもありだが。
いやまあ、緊急事態のことは取り敢えず後回しで良いとして。
俺の個人資産額の推移の把握だ。
2日かけて隠し場所にある資産額は書き出してきて、引き出しの中に適当に突っ込んであった受け取り明細のようなものも全部集計した。
だが、残念ながら。
差額がかなり大きい。
シェイラにプレゼントを買ったり、旅行に行った際に土産を買ったり、自分の趣味の鍛冶用の素材を買ったり、礼服っぽいのやそれ用の靴を買ったりもした。
靴と服に関しては高いのはちゃんと領収書が修繕やサイズ修正が必要な際に持ってきてくださいという紙と一緒に出てきたのだが、適当に着るものが足りなくなったら補充している普段着の購入記録なんて残っていない。
という事で支出の把握が全然できてないんだよなぁ。
最初に始めた時は、受け取り明細の総額から計算した金額よりも銀行残高があまりにも大きすぎるので、直近の銀行の入出金明細を出してもらって確認したら実は毎月工房から一定額が払われていることが判明した。
そういえば、最初の頃に収入がある場合はそうするって話し合ったんだったっけ?と後から思い出した。
考えてみたら工房側の出費に、俺達3人への給与ってあったわ。
給与分とオーナーとしての権利とが別になっていて、微妙に複雑だったからあまり深く考えていなかった。
で、毎月の一定額の受け取りを概算で足してみると今度は残高が少なすぎる。
誰かが勝手に引き出しているのか、それとも俺が使っているのをちゃんと認識していないのか。
銀行残高は毎月の残高だけだったら銀行に行って請求すれば教えてもらえる。
が、入出金明細は銀行の帳簿を誰かが写さなければならないので期間に応じた費用が取られるんだよなぁ。
過去の指定した時期の銀行残高を教えてくれって言うのだったらもっとずっと安く情報を提供して貰えるが、ある意味いつ何に金を使ったか微妙に把握していない身としては、各年の年度末残高が分かったところであまりそれは意味がない。かと言って、過去7年分の入出金明細を書き出されたら金貨がそこそこ吹っ飛ぶ事になる。
諦めて、適当にこれからの出費を数か月分記録していって、それで日常的な支出を把握して概算してみるかね?
と言うか、過去の金の動きなんて細かいことはどうしようもないからなぁ。
将来に向けて、今後の収支をちゃんと把握できるように暫く帳簿でもつけようかなぁ。
あまりやりたいことじゃあないが。
取り敢えず、どんなことに金を使っているか把握しておいて、毎月末の残高だけでも銀行から聞いて書いておけば想定外な動きがあったら思い出せるかも?
……シェイラはちゃんと自分の金の収支とかってきっちり把握しているのかな?
家計簿は銀行残高とちゃと一致するように記録しようと思ったらかなり細かくやらないと果てしない底無し沼……w




