1318 星暦558年 桃の月 14日 書類作業(10)
「取り敢えず、過去の収支報告に問題はなかったっぽいし、色々と年ごとの推移を比較しやすくなってここ数日頑張った甲斐があったよね。
今年の分のもまだ今月分の費用が概算値だけど特に問題はないようだから、これを来月になって最終値に差し替えたらさっさと国税局に出して終わりに出来るね!」
クッキーを手に取ってソファに身を投げ出しながらシャルロが言う。
「中々大変だったが、それでも4日で終わったんだから、意外とあっさり済んだな。
としたら、残りの半月は何をする?
こうやって年次ごとに比較することを考えると、下手に年末をまたぐ開発をしない方が良さげだし、年末まで半月ほど適当に遊んで過ごすか?」
シャルロは家族サービス、アレクも家族の手伝い、俺はシェイラんところに行ってなんだったら発掘の手伝いをしてもいいかも?
まあ、発掘チームは年末の報告作りとかで少なくともツァレス(と彼の尻を叩いているシェイラ)はそれなりに忙しい筈だが。
「新しい開発は来年まで持ち込むのは良いとして……。
折角やり方が分かったんだし、個人的な収支の流れも確認しておいたらどうだ?
気が付いていない無駄遣いをしていたり、意外に大きな工房以外の収入が突発的に今まであったのだとしたら、それを理解していないと後で何か個人的状況に変化があった時に思いがけず金が足りなくなったりするかも知れないぞ?
シャルロだったら夫婦の間でどのくらいお互いがお金を使っているかとか貯蓄しているかとかも一度把握して話し合っておくのも悪くないだろうし」
アレクが提案した。
マジか???
自分の金なんて、昔はポケットと適当な隠し場所に何枚硬貨が入っているかで把握していたから、取り敢えず金貨数枚を隠し持っていればいいやって感じであまり収支なんて気にしていなかったんだが。
確かにどのくらい入って来てどのくらい出て行っているのかとか、分かっておく方が良いっちゃあ良いんだろうけど。
……それこそどっかの権力者と対立する羽目になって暫く潜伏生活する羽目になったりした際に、どの位金があった方が良いのか把握しておくのはいいかも知れない。
とは言え、今は食事は基本的に全部パディン夫人に任せている。昼食は工房の費用としているし、朝食と夕食だけ俺たちの取り分から引く形で工房へ払っているが、俺が一人で暮らすことになったら宿か屋台の食事になるから、パディン夫人が村の農家や肉屋とかから食材を買ってきて料理している食費とでは全然違うことになると思う。
「そうだね~。
ケレナも僕たちがやっていることを聞いて興味を持って、同じことをお父さんとの事業に関してやっているらしいんだよね。今度は僕たちの個人の収支に関してやってみても面白いかも」
シャルロが頷いた。
まあ、シャルロはね。
奥さんがいるし、そのうち家族も増えるだろうし、収支の把握は悪くないことだと思う。
と言うか、シャルロの場合は(ケレナもだが)実家の親族から財産とかをそれなりに貰っているんじゃないのか?
そこら辺もちゃんと把握してそっちからの収支もしっかりお互に理解しておく方が良いのかも。
貴族ってそういう点どうしているんだろ?
あまり家の金の計算をしているとか話し合っている貴族を前職時代にお邪魔した際に見た記憶はないが。
「他人事みたいな顔をしているが、ウィルだってもしも将来結婚するとか誰かと同居することになった場合、生活費の負担割合とかの話し合いの為にも自分の収支はしっかり理解しておかないと呆れられるかもしれんぞ?」
アレクが俺の顔を見て言った。
結婚ねぇ……。
イマイチ想像がつかない。でも確かに収支をはっきり理解せずに適当にポケットに入っている緊急資金の金貨の枚数しか把握していないなんて言ったら呆れられるのは確実だな。
あちこちに隠してある金貨や換金用の宝石の総額は大体把握しているんだが、収支の流れはあまり気にしていなかったからな。
表に出来ないような収入を誰かと話し合うことになるかは微妙だが、そっちからの収入は隠し財産ってことにしておこう。取り敢えずそれ以外の軍からの依頼とか沈没船からの収入だけでもちゃんと推移を書き出してみるか。
ポケットマネーはマジでポケットに入っているお金だったw




