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シーフな魔術師  作者: 極楽とんぼ
卒業後6年目
1317/1327

1317 星暦558年 桃の月 14日 書類作業(9)

「これってさぁ、買った時に素知らぬふりをして領収書の金額を費用に入れちまう方がよくないか?

 領収書があれば、費用か道具かなんて、よくよく調べなきゃバレないだろ?

 領収書をちゃんと取っておいて、最後に破棄する際にその分の費用を計上するのってうっかり領収書を無くしたらその分税金を取られて損じゃないか」

 工房を始めて以来の買った家具や道具類のリストと、それを買った際の領収書が入った分厚いファイルをアレクから見せられ、年度ごとに買った金額を収支と銀行残高の変動の差額と確認するのにシャルロと共同作業でも一日かけた俺は、翌日にお茶を飲みながらアレクに文句を言った。

 ちなみに各年度の費用の中には壊れて破棄した道具の購入費用もいくつかは含まれていたのを、アレクに指摘されて初めて気づいた。

 意外とこういうのって領収書があって『これは何それ』って説明されているとそのまま受け入れちゃって、処理方法が普段と違うとか、費用の種類が他には見かけなかったものだって気付かないもんなんだな。


 昨日は数字の照合に一杯一杯であまり何も考える余裕がなかったのだが、一晩たって朝食を食べている時に色々とこのやり方の不都合な点を思いついたのだ。

「ちゃんと領収書や破棄した時の書類を取っておかない事業主や工房主から余分に税金をふんだくるのもこの方法を強制している国税局の目的の一つなんじゃないかと私や商会の人間の多くは思っているよ。

 しかもあいつらは『うっかり』道具なんかを購入時に間違って費用計上してないか目を光らせている上に、あえて初年度は見つけても何も言わず、数年後に過少申告した税額が積み重なってそれなりになった時点で初めて見つけた顔をして、ごっそり遅延加算金ごと毟り取っていくんだ」

 アレクが苦笑しながら言った。


「か〜! いやらしい!!

 道具を買った時に費用として認識して、買い替えたとか金に困った時に売って金が入ったならその時にそれを収益にするって流れでも良いじゃないか。

 こっちのうっかりを狙った国税局の言うとおりにしなくて済むよう、誰か王宮と交渉しようとしなかったのか?」

 豪商とかだってそれなりに王宮への影響力があるだろうに。


「昔はそうしていたんだが、商売の様に色々と道具を買って費用計上した上で壊れたって言って裏でこっそり売る商会がそこそこ多くてね。購入時の費用計上は駄目になったんだ。

 だったらせめて数年で壊れる道具だけでも大体買い替えになる年数で割った費用を毎年支出として認めて、最後に買い替える際に差額を計上する形にしてはどうかと言う話もあったんだが……」

 アレクが紅茶を入れるために手を出しながら言葉を伸ばす。


「……だが?」


「色々と面倒過ぎるって話になって、結局流れた。

 同じ道具だって安物か高級品かで買い替えに掛かる年数が違うし、一々過去に買った道具をまだ買い替え年数内か毎年確認して費用計上していくのも大変だから、結局商会側が諦めたんだ。

 どうせ商会はそれ程沢山道具を買い替えたりしないし、買い替えの際に費用計上を忘れることはないからな。

 一番損をしている職人とか魔術師の方がもっと強く主張するべきなんだろうが、そっちは数字をちまちま追いかけるよりはより多くの物を作るなり術を掛けるなりして金を稼ぐ方が楽だって投げたらしい」

 アレクが締めくくった。


 なるほど。

 確かに、こんな風にちまちまと費用になる道具の確認とかをするよりは、魔術院の依頼を受けてどこかに術を掛けに行く方が純収支的にはプラスになりそうだ。

 そう考えると細かい数字に拘る方法は面倒だと嫌がる魔術師や職人が多くなっても不思議はない。


「なんかそういう面倒臭がり屋の工房の代わりに書類整理とか計算をやってあげますよ~って事業をしたら儲かりそう?」

 シャルロがクッキーの缶を取りだしながら言う。


「そういう職業もあるよ?

 ただまあ、あまり複雑にすると工房長側は何も分からず、会計をやっている側が好き勝手に出来るせいで横領が増えるらしくてね。

 結局、忙しい職人や魔術師が我慢して数字を追える程度に単純にするためには今の形が良いだろうってなったんだ」


「税金なんて取らなきゃいいのに」

 どうせ何かが起きたって国が守るのは貴族や豪商だけなのだ。

 下っ端を守るとしたら単にそれが収入源になるからってだけだろう。

 まあ、そう考えると収入源=税金を取るからってことだから、下っ端から税金を取れないとなったら国は国民を全く守らなくなるかも?


「税金なしに国を運営しようと思ったら、それこそ侵略国家で他国を定期的に征服してその国の富を略奪した上で敗戦国の民を奴隷として売り払うような国じゃなきゃやっていけないんだ。

 それよりは、アファル王国みたいに税金を取るが特に侵略方針を取らない国の方がいいだろう?」

 アレクが指摘する。


 マジか~。

 そこまでしないと国がやっていけないなんて、マジで国って金食い虫なんだな。


これで年金制度も国民皆医療保険制度もない国なんですよ〜


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― 新着の感想 ―
そっか、王政だから権限が集中しているのか。 多分議会も存在しないから………官僚貴族次第かぁ。 中央集権化が成立しているのか、憲法等の法律があるのか気になりますが。 直接的に影響がないから、三人には関係…
なんだか税務署に対する恨み辛みが文面から漂ってくるんですけど
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