1311 星暦558年 桃の月 11日 書類作業(3)
取り敢えず、契約相談料の妥当性に関しては良く分からないから後でアレクに確認するとして、案件の数は一昨年に何を開発したかを思い出せばいいだろう。
「……いつ何を開発したか、イマイチ思い出せないんだけど」
暫く考えてから、開発した商品は思い出せてもそれが去年か一昨年かそれより前だったか微妙に自信が持てず、思わず情けない顔をしながらアレクの方を振り返ってしまう。
アレクが溜息を吐いて、何やら立派そうなファイルを工房の奥にある見つけにくい箱の中から取り出してきた。
あれは決まった順番に魔力を通さないと開ける際に大きな音が出るようになっている細工箱的な魔具で、金庫の代わりに使っている。
本気で盗もうとされたらどうしようもないが、金庫にしまうよりは本職が来ても見つけにくいし、出来心を抱いた素人にはどう足掻いてもこっそり開けられないようになっている。
「こちらが我々の工房が取得した特許関連の申請書の写しだ。申請した年度順になっているから確認すればいい」
中から取り出した立派なファイルを渡された。
おお~。
特許の権利っていうのは俺たちの魔術院の会員情報と繋がっているのでこちらの書類が無くなってもあっちから確認できるし、毎年向こうから勝手に特許料も払い込んでくるんだが、間違いがないかを確認するのは工房側の責任だという事でアレクがしっかり毎回確認しているんだよなぁ。
魔術院から来た計算書が俺たちの収支報告書の収入側と一致しているかは俺も確認していたが、考えてみたら計算書自体が特許申請した数と一致しているかとかは見てなかった。
まあ、特許があったって収入があるとは限らないから、アレクはシェフィート商会からの書類をより綿密に確認しているようだったが。
取り合えず、まずは星暦556年の特許か。ファイルを開いて中を確認していく。
「余剰魔力で温まる……抱き枕的ヌイグルミと腹巻と寝袋。その前は空滑機改か。あと、渡河用魔具。年の初めには絨毯で子供が寝転がっても大丈夫なように清掃用の魔具も開発しているな。あ、この時に家具を動かす魔具の特許も申請したんだっけ?
虫除けはその前の年か」
メモを取りながらぱらぱらと特許申請の書類をめくっていく。
なんかついこないだのような気がしたけど、もう2年というか実質3年前になるのか~。
「あ、僕も見るから貸して~」
俺がファイルを閉じて箱に戻そうとしたら、シャルロが手を差し出してきた。
去年の分ぐらい、まだ覚えているだろ?と揶揄いたかったが、自分でも覚えている自信がなかったのでそのまま何も言わずに渡す。
さて。
今度はこれらの特許申請とかシェフィート商会との契約に関する相談にいくら取られているかだよな。
あと、これらと関係ない相談があったら何だったかって確認する必要があるし。
弁護士からの請求書を確認していくが、必ずしもどの案件関連なのか明記していないから分かりにくい。
「これってなんで毎回同じ弁護士を使わないんだ?」
今見たところ、3か所ぐらいの名前が出てきている。
「事務所によって得意分野とか伝手の有無とかに違いがあるからな。
空滑機改に関しては最初に申請した時に相談した事務所を使った。寝袋に関しては軍と契約することになったから、あっちに強い事務所にも後から追加で相談したから、二箇所から請求書が来ているが間違いではないぞ」
アレクが説明してくれた。
確かにヌイグルミや腹巻と、軍用の寝袋じゃあ色々と違いがあるかも?
相談するのに二か所の事務所を使っていたなんて、一昨年の収支報告書の確認をしていた時には気が付いてなかった気がする。
請求書と支出が合っているかしか見ていなかったんだろうなぁ。
まあ、さらっと説明を受けてすっかり忘れて、今になっても記憶に浮かばないだけな可能性もあるけど。
「なんかさぁ、費用はまあ良いにして、収入に関しては今まで開発した魔具全部に関して収入があるかとか、収入がないのは妥当なのかとかを確認していくのってめっちゃ手間じゃないか?
なんかこう、特許を一覧表にして、その横に定番費用がいくらだったかと、年毎の収入がいくらかを書き込む大きな表みたいの作らないか?」
最初に集計するのは大変だろうけど、最終的にはその方が手間が省けるし、抜けも減らないか?
はっきり言って、ここで色々と手間をかけて過去の分を確認しても、来年になったら今やったことをほぼ忘れていてまたやり直す羽目になる気がするんだが。
「最初は私も表を作っていたんだが……紙がとてつもなく大きくなって諦めた」
溜め息を吐きながらアレクが言った。
そっかぁ。
中々難しいな。
エクセルはそう言う点、偉大ですよねぇ




