1300 星暦558年 橙の月 27日 保存(20)
「持って来たぜ~~!!」
朝食を食べようと2階から降りてきたら門の所から隣のガキが得意げに歩いてくるのが目についたので、外に出て出迎えたら先日見たようなサイズの箱を差し出された。
俺、朝食まだなんだが。
朝食を食べ終わって、まったりお茶を飲み、昨日の晩に設置した生肉や果物の状態や目覚めさせて胡桃と一緒に入れておいたネズミたちの様子を確認してから新しいネズミを受け取りたかったんだけどねぇ。
だが後でもう一度来てくれと言うのは悪いし、面倒だな。受け取っておこう。
「おう、ありがとうよ」
ポケットを漁り、銅貨を見つけて渡しながら箱を受け取る。
取り敢えず、鍛冶作業小屋の方にでも置いておくか。
扉を閉めておけば通りすがりの猫に食われちまうなんてことは無いだろう。
◆◆◆◆
「ベムがネズミを持ってきたから、鍛冶小屋の方に眠りの術を掛けて置いておいた」
朝食を食べ終わり、工房でお茶を飲みながらシャルロとアレクに知らせておく。
「あ、もう来てたんだ。
まだなのかと思っていたよ」
アレクがちょっと驚いたように応じる。
「朝食前に来てたからな。
明日に関してはちょっとまだ分からないから、必要だったら今日の午後に連絡すると言っておいた」
あの調子じゃあガンガンネズミを集めてきそうだから、引き続き頼まなきゃ集めるなと言っておいたのだ。
王都の下町じゃあ人間と同じぐらいネズミも居たが、ノルデ村はそれなりに猫も居るし、清潔だからネズミなんてあまりいないと思っていたんだが、意外と捕まえるのは問題ないらしい。
もしかしたら、普通の家じゃなくて農家の農作物を収納している倉庫なんかに沢山出るのかも? そこでネズミを捕まえるのにも小遣いをもらっていたら、ネズミ集めで利益が二重取りできそうだ。
「そういえば、さっきちょっと見てみたけど、ネズミたちの方はどれも現時点で普通に元気っぽいね。
保存庫や氷の解凍が遅れたちょっと壊れたっぽい呪器に入れたネズミも昨日の夕方はちょっとぐったりしている様子だったのに、今朝は平気そう」
シャルロがクッキーに手を伸ばしながら言った。
「1日じゃなくて10日……はまだしも3日ぐらい、呪器を使った状態で悪影響がないか調べなきゃだが、まずはちゃんと腐敗やカビといった素材の劣化を遅らせられる魔具を作れたか確認しなくちゃだな。
魔具として使い物にならないんだったら、それが生き物に悪影響を与えるかどうかを調べる意味なんてないんだし」
アレクが指摘する。
確かに。
王宮の研究所で実験している奴らが見逃さないように、最終的には普通の呪器が生き物に悪影響を与えるかは確認した方が良いだろうが、現時点では後回しだな。
「餌や水をやらないで済むのは助かるから、昨日作り直した試作品を調べている間は元からいるネズミたちは呪器と一緒にひたすら眠らせておこう。
痩せてきたら起こして餌をやらなきゃだが」
ネズミって見た目で痩せたかどうか、分かるのかな?
秤で重さを確認しておく方が無難かも?
人間と違って目の下に隈が出来るとか、頬がこけるとかってないからなぁ。
毛皮もあるし、見た目だけで判断するのは難しそうだ。
「そうだね~。
うっかり死んじゃったらそれはそれで実験結果だとも言えるし」
シャルロが頷く。
おや。
意外とシャルロはネズミの死には冷淡なようだな。
まあ、実験が終わったらネズミは全部殺すことになるんだろうから、実験で死のうが俺たちが最後に殺そうが大して違いはないか。
「それはさておき。
まずは昨日の食材がどうなっているか、確認しよう」
アレクが空になったマグを置き、立ち上がった。
昨日のうちにパディン夫人から貰ったレバー肉と桃を幾つか切ってそのまま箱に入れた物、ちゃんと起動しているっぽい呪器の箱に入れた物、生き物相手にはちゃんと機能していないと言われたが氷の解凍が遅れた呪器の箱に入れた物、そして完全に壊れていたのを見よう見まねで直してみた呪器の箱にいれた物と4通りに分けてみたのだ。
さて。
何がどうなっているか、楽しみだ。
いや、腐りかけた肉の臭いはそれなりに酷いので楽しみというのは語弊があるが。
多分消臭の術を後でかけまくらなきゃだな。
『あの肉を食わせろ〜!!』