1298 星暦558年 橙の月 26日 保存(18)
「壊れちゃっている魔術回路だから全体に魔力を通してもちゃんと起動しないのに、瘴気が出る部分だけに魔力を通すと微細とは言え瘴気が出るなんて、不思議だね~」
瘴気が出る部分を確認しながら壊れていると思われる呪器の魔術回路を大きく区分けしながら描きだし終わり、全体に魔力を通したらうんともすんとも言わなくなったのを見て、シャルロが呆れたように呟いた。
「壊れている個所のどこかで魔力が通らなくなっているんだろうが……この瘴気を出す部分はそれだけで一つの機能が魔術回路として完結しているんだろうな。
他の魔術回路の中に紛れ込ませて追加的に機能を果たしているだけだから、そこだけに魔力を通すと起動するんだろう」
アレクが難しい顔をして言った。
「なんかこう、かなり悪意と言うか瘴気を広めようという意図を感じて嫌な感じだが、少なくともだったら壊れていない呪器の魔術回路からこの瘴気を生み出す回路部分を削っても問題なく起動するかも?」
ある意味、この瘴気が出る部分は独立した機能を付け足しているだけだから、無くなっても問題ない筈。
「確かにそうだな。
次は氷の解凍が遅れた魔術回路を描きだしてくれ」
アレクが頷きながら頼んできた。
「おう。
その間にこっちの魔術回路からこの三箇所の瘴気が出る部分を削った試作品を作っておいてくれ」
予めヤバい部分を削った試作品を作っておけば、解凍が遅れる魔術回路との違い(瘴気が出る部分以外で)を確認したらすぐに修理できるかも?
とは言え、考えてみたらこの解凍が遅れた呪器の魔術回路ってその効果範囲に居たネズミが妙に元気がなくなったから、何か問題点が他にもありそうだが。
「考えてみたら、これで瘴気が出る部分なしの試作品が作れたら、明日にまた効果を確認するためにまたネズミが必要かも?」
魔術回路を作る素材を工房の奥から持ってきたシャルロが指摘した。
「だよな?
やっぱ新しい試作品には新しく捕まえたネズミを使う方が、他の試作品での実験で生じた不具合とか疲労とかの影響がなくて確実だよな」
次から次へと試作品を作るためにネズミを増やしていくと、パディン夫人やその他女性陣から嫌がられそうだが。
「取り敢えず保存庫でのテストは追加でしなくていいと思うから、明日はネズミを3匹欲しいとベムに伝えてくるよ」
そういえば、隣のガキってそんな名前だったっけ?
一応紹介されたことがあるし時折パディン夫人とかとの話題に名前が出てくることもあるが、『隣のガキ』で済むから忘れてた。
アレクが隣へネズミ確保の依頼をしに行っている間に、解凍が遅れる呪器の魔術回路を区分けしながら大きく描きだしていく。
瘴気が出る部分は同じような場所に同じ形であったが、他の部分では数箇所違いがある。
これってもしかして最初からどちらかがちょっと欠陥品で作り間違えられていたのか?
それとも時代によって魔術回路が違ったとか……もしくは作者か工房次第で何通りかの魔術回路があるとか?
考えてみたらアファル王国の魔具だって同じ機能でも魔術回路が違うのは色々とある。
人気がある魔具はその製造者が自分の魔術回路の特許に基づいて同じように作っているが、それを真似た魔具には特許料を払わないで済むようにギリギリ似せて作ったものだってあるし、俺達みたいに昔の奴を改造して作る魔術師だっている。
そう考えると、東大陸で売っている呪器が全部同じ魔術回路を使っている方がおかしいか。
「どう、出来た~?
こっちは終わったんだけど」
集中しながら描いていた魔術回路を写し終え、大きく息を吐きながらペンを置いたらシャルロが後ろから声を掛けてきた。
気が付いたら、アレクも帰って来ていた。
「おう、一応終わったぞ。
幾つか、魔術回路が切れているっていうんじゃなくって形が違っている個所があるが」
この二つを見比べて、壊れていると思われる最初の呪器の魔術回路を修理できるか、ちょっと微妙かも?
まあ、取り敢えず2つの魔術回路の違いの厳密な確認は、アレクとシャルロに頼もう。
魔術回路を手に取らずに、ちょっと離れたところから心眼で読み取って描きだすのって意外と疲れるんだよなぁ。
更にネズミが追加されます
これで大量脱走が起きたりしたらめっちゃ怒られそうw