1295 星暦558年 橙の月 26日 保存(15)
「一応どれも死んでいないが、こっちとこちらは体調が悪いのかも?」
昨日の夕方、シャルロが帰る前に呪器(保存庫も)を止めておいた箱に残されたネズミたちは、どれも翌朝に確認したら生きては居た。
が、保存庫に入れたのと、氷が解けるのが遅かった箱に入れたのがちょっと動きが鈍く、胡桃も全部は食べ終わっていなかった。
壊れていたと思われる呪器を入れた箱にいたネズミは元気一杯なようで胡桃だけでなく、その殻まで全部食べ終わっていた。いや、食べ終わるというよりも下に屑になっている感じだからひたすら齧られたのかな?
食べたのか齧っただけなのか、微妙に不明だ。胡桃の殻を砕いて粉にした場合にどのくらいの量になるかなんて知らないし。
ネズミが食べようと思って齧っていたのか、単に腹がすき過ぎてなんでもいいからと齧ったのかは微妙に不明だ。
保存庫に入れていたネズミの方は胡桃の殻をあちこち齧った形跡はあるが、途中で飽きたか諦めたっぽい。
氷が解けるのが遅かった呪器入りの箱に居たネズミはもう少し齧って胡桃の殻に穴をあけるところまでいったのに、こちらも途中でやめたらしく殻の中にまだ胡桃の実が残っている。
「意外にも、保存庫って健康に悪いっぽいな?」
世間一般で広くそこそこ長いこと使われている魔具なのに、実は健康に悪いかもと言うのはかなり意外なのだが。
「まあ、人間は保存庫の中に長時間入るという事はないからな。
それにもしかしたらネズミが入ったら具合が悪くなるように意図的に何か効果が組み込まれている可能性もある」
アレクが指摘する。
確かに?
保存庫は食料を保存するのに使われる事が多いから、中にネズミが紛れ込んだら是非とも健康を害して食欲を失って欲しいところだろう。
もしかしたら小型の動物が入ると食欲がなくなるとか生命維持活動が低下するといった効果が魔術回路に組み込まれている可能性もあるか。
「う~ん。
保存庫のネズミへの効果はどうでもいいにしても、呪器のネズミへの効果がちょっと心配だなぁ。
ちゃんと機能している方の呪器と一緒だったネズミが元気なのに、中途半端に壊れているっぽいけど氷が解けるのは遅かったのに入っていたネズミが変に元気がないのってなんか怖い副作用が生じているのかも?」
シャルロが顔をしかめながら言った。
「今日はもう少ししたら隣のガキがまたもう4匹ネズミを持ってくる筈だから、取り敢えず全部眠らせて、昨日からのネズミには紐でも結び付けてどっちか分かるようにした上で、今日は1日ネズミ達を眠らせた状態で各箱に居れて呪器や保存庫を起動させておこう。そんで、夕方にそれらを止めた時点で眠りから覚まして餌と水をやって明日の朝の様子を確認してみないか?」
元々、この呪器は眠らせた人間の体の機能をぐっと遅くさせて手間を掛けずに人間を拘束できる為の道具みたいなものだろう。
だとしたら、眠っている状態で使うのが正しい使い方なのかもしれないから、まずそうやって使った際にネズミにどんな影響があるかを確かめてみたい。
「まあ、良いが……結局、ネズミにせよ、人間にせよ、うっかり入ってしまったペットにせよ、その呪器を使って保存用の魔具が出来上がった場合、生き物が中に入る時に眠らせる予定はないんだから眠らせたら大丈夫となっても、あまり関係なくないか?」
アレクがちょっと首を傾げながら聞き返す。
「まあ、そうかもだけど。
寝ていたら大丈夫なのか、何をやってもダメなのか、一応知っておきたいじゃん?」
というか、寝ていたら体の時の流れを遅くできる呪器を再現しちゃったらそれはそれで困るんだけどね。
生き物には効果がないけど食材とか薬とかが劣化しないようにそれらの時の流れを遅らせる魔具を作りたいんだよ。
「現時点では効果も魔術回路も手探りで調べている状況だからね。
思いつくことを色々と試してみたらいいんじゃない?」
シャルロがノンビリと言った。
だよな!
『我々の鼠権の侵害を断固といて抗議する!!』