1291 星暦558年 橙の月 25日 保存(11)
まずは氷を4つほど作り、今回の実験用に作った小型の保存庫とゼリッタで買った呪器3つを納めた箱に入れることにした。
「ここの温度は20度」
廊下からのドアの右側の角に置いた保存庫の傍からアレクが声を上げる。
「ここは……ここも20度だね」
奥の壁際に置いた呪器入り箱の傍でシャルロが温度計を確認する。
「こっちは……22度だな。外からの日差しで少し壁が温まっているのかな?
ちょっと動くから待ってくれ」
南東側の角に置いた呪器入り箱の傍で温度をはかったが、ちょっと高かったので壁から少し離れた位置へ呪器を動かし、温度計を何度か降って温度を下げてから再度温度を測る。
「お、ちゃんと20度になった」
「こっちも少し動かしたら20度になったな」
南側の庭へ出る扉の傍の角に置いてあった呪器を少し動かしていたアレクが温度を確認しながら言った。
「じゃあ、氷を入れて効果確認~」
シャルロが部屋の中央に置いてあった氷を一つ氷ばさみでつまみ、呪器の有効範囲を分かりやすく示した箱の中に入れ、呪器のスイッチを入れた。
アレクと俺も同じく氷をそれぞれの箱に入れ、シャルロが最後の氷を保存庫に放り込む。
「昼食後にネズミで実験するんだっけ?」
呪器の入った箱を覗き込みながらシャルロが確認に尋ねてきた。
「ああ、昼食後に持ってきてもらうことになっている。
うっかり早めに受け取って逃げられて昼食を齧られたら困るからな」
ネズミを捕まえるガキたちの昼食が齧られたらご愁傷様というところだが……まあ、あいつらは色々とネズミを使った悪戯をしているようだし、捕まえたネズミを逃がさないことにも慣れているだろう。
うっかり逃げたとしても、隣の家なら猫が居るからそのうち駆逐されるだろうし。
というか、駆逐ではなく捕まって食べられていると期待したいな。逃げ出したネズミがこっちに来たら迷惑だ。
「お、これはちょっと氷の解ける速度が遅いかも?」
部屋の中を歩き回りながら氷を確認していたシャルロが3つ目の呪器の所にある氷を見て声を上げた。
「ふうん?
確かにそうかも?」
あまり皆で近づいては温度が上がるかもとちょっと離れたところで椅子に乗って上から覗き込んで氷の様子を確かめる。
確かに、3つの箱の中の氷の中で、一番元からの変化が少ないっぽい?
保存庫の中の氷は……ガラス越しに見たところ、こっちも残り2つよりは氷の解け具合が遅いようだが、最後の呪器よりは早いように見える。
「考えてみたら、保存庫の場合は閉じられた箱の中だから氷で空気が冷えて溶けるのが遅くなるかもだな。
同じ環境でテストするなら、呪器を入れる箱もガラス張りで蓋をする形にするべきだな」
アレクがちょっと顔をしかめて工房の奥へガラス板を取りに戻りながら言った。
「確かに!
だがまあ、蓋がない箱で保存庫より状態変化が遅いのが出てきているんだから、ちょっと蓋をするのが遅れたけどそれはそれでいいってことで」
アレクを手伝ってガラス板を箱に被せながら応じる。
ちなみに呪器にまとわりつく薄暗いモヤはまだそのままだ。
実験をする前に清早か蒼流の水で洗って清めて故障しちゃったら、効果がないのが壊れたからなのか、元々そんな機能がないからなのか分からないからな。
どうせそれほど大した量のモヤでもないし、洗うのは一通りテストしてからでいいだろうという事になったのだ。
一応、今晩の風呂は清早に水を出してもらう予定だけど。呪器ではなく、俺たちを奇麗に洗うのだ。
シャルロは自分の家に帰るからあっちは蒼流に頼むことになるが……元々蒼流が傍にいたらモヤがシャルロ周辺から弾き飛ばされているみたいだから、特に必要はないとも思うけどな。
……というか、俺の周囲からもモヤが押しのけられているな??
清早が助けてくれているらしい。
となると、被害を受ける可能性があるのはアレクだけか。
問題が起きていないか、毎日しっかり心眼で健康状態を確認しておくようにしよう。
使っている箱は木箱なので、ガラス板を載せても潰れませんw