1287 星暦558年 橙の月 24日 保存(7)
「次は中古品の店を頼む。呪器なんかも興味があるんだ」
色々と興味深い新品の商品を扱っている店を出て、忘れる前に最初の目的だった物も期待できる店をペグに頼む。
今の店には色々興味深い物があったが、まずはここまで来た目的の呪器を探さないと、落ち着かない。
「呪器ねぇ。
あんなの、効果が弱いし直ぐにバレるから誰も知らないような新しいの以外は大して役に立たないって聞くけどな」
ペグが呟きながら表通りから一本裏へ進む。
東大陸の人間との話し合いで呪器の売り込みが特にないのって、もしかしてあまり効果がないと思われているからなのか? バレなきゃそれなりに効果があって困りもんみたいだったし、この前みたいに普通に(?)役立つ場面もあるようだが。
それに西大陸ではあまり使われないから、それこそ直ぐにバレなくて効果が困るぐらいあるのだ。
というか、知れ渡ると効果が薄まるから、裏社会が態と静かに買い入れているとか? 普通の商会とかには売らせないように話をつけているんかね?
そうだとしても、俺たちは別に裏でヤバいことに使う魔具を開発しようとしている訳じゃあないから裏社会から睨まれる謂れはないが。
とは言え、変な誤解を招かないように、あまり大々的に買いあさるのは止めた方が良いかも。
裏通りと言うほどではないが、表の大通りからもう少しランクの下がった通りの端にあった店にペグが俺たちを連れてきた。
かなり見た目が小さい。
「奥が広いんだ、ここ。
正面は普通の日用雑貨の中古品が多いから、奥の方へ進めよ」
ペグが俺たちに忠告する。
スラムの人間が店の中に入ると万引きや客からのスリを警戒されて店から追い出されることが多い。
入って一直線で目的の物を手に取って支払いをして出て行く分には金は金ってことで売ってくれるが、商品を吟味するように長居するのは歓迎されない。
俺も寒い時期なんかに暖を取りつつ何か良さげな物を万引きできないかと、孤児院を出て直ぐの頃は色々な店でうろつこうとした。
孤児院のボロいがそれなりに清潔にしていた服が薄汚れてくるにつれ、店に滞在できる時間が短くなったのは今でも覚えている。
ペグもそこら辺は分かっているのか、外で待っているつもりらしい。
ちゃんと買い物する客を連れてきたらそれなりに店主が借りと見做して何か値引きしてくれることもあるんだがな。
俺たちが何かやらかすと思っているのか、それとも何も買わないと思っているのか。
さっきの所ではメモを取るだけで何も買わなかったからな。
ちょっと案内役にとっての俺たちの有用性に関して失望させてしまったのかも知れない。
ペグの忠告通り、店の奥の方へ入っていく。
古着や古い鍋、食器などが置いてある手前を通り過ぎると、奥に魔具が棚に入れられて展示してあった。
流石にガラスで触れられないようにしてある訳ではないが、それなりの高さに決まった間隔で置いてあることで、何かが盗られたらすぐ分かるようになっているな。
「あまり古い魔具はないから、どれも現時点で有効な特許登録が残っていそうだね」
シャルロが魔具を見回しながら言う。
「だな。
そっちの方に呪器がありそうだ」
なんかちょっと見覚えがある呪器特有の薄暗さが漂っている。
普通の魔術や魔具だって人を眠らせる効果があるものはそれなりにあるし、それこそ台所の保存庫は物の動きを止める効果が緩いながらもある程度はある。
なのに心眼で見ても特に薄暗いことはないんだよなぁ。
一体呪器の何が普通の魔具と違っているんだろう?
似たような効果でも呪器を使うと何か副作用が蓄積しそうでちょっと怖いんだが……誰かそこら辺のことを教えてくれないかな?
今度、ジルダスに行ってゼブにでも尋ねるべきか。
いや、幾ら使う事が多いかも知れない裏のトップとは言え、魔具や魔術の効果に関してゼブだって詳しい論理とか理とかは知らなそうだ。
呪器を作っている爺さんか婆さん辺りに詳しく聞きたいところだが……そういう連中は気軽に会えるようなところには居ないんだろうなぁ。
下手に知識があったら捕まえてそれを全部吐き出して金に換えようとする連中が多そうだ。
俺達だって、暴力をふるうつもりはないが理解を深めて金になりそうな新商品に繋げようとしているんだから人のことは言えない。
「お。
これはどうかな?」
比較的新しそうな見た目で、魔術回路がフェンダイの部屋にあった呪器と似ているのを手に取る。
これって考えてみたら、ちゃんと機能しているかどうやって確かめればいいんだろ?
寝ていてずっと起きなくて食事も要らないっていうのを検証しようと思ったら、1日か2日は最低でもかかるよな?
効果のテストに時間が掛かりそうですよね