1286 星暦558年 橙の月 24日 保存(6)
「食器類が色々とデザインが違って面白いな」
最初に入った店を歩き回ったアレクが、陶磁器を置いている一角で足を止めて言った。
確かに?
「色使いが違うんだね。
でもこれが料理に合うかどうかは実際に食事で使ってみないと分からないかも?」
シャルロが指摘する。
アファル王国の皿は無地が多い。
一般市民の使う食器は薄い単色の陶器が多く、金持ちには透き通るような白地で縁に模様がある磁器が人気だ。
こちらの一般市民用(多分)の皿は陶器なんだが皿全体が鮮やかな明るい色で模様が描かれているのが多い。
料理の色と食器との取り合わせなんて特に考えたことはないが、確かにこれだけ鮮やかな色だと料理がまけちゃって違和感があるかも?
見た目は奇麗だが、料理と色がぶつからないかね?
花瓶にしても、花が色負けしちゃったら意味がない気もする。
「どうせ家庭料理なんかではそこまで料理の色使いにも気を使わないだろう。
一般市民用に手ごろな値段で売るなら華やかで喜ばれそうだ」
アレクが言った。
「そこまで安く買って帰れるか?」
陶器となったらそれなりに割れないように緩衝材と一緒に箱詰めしなければならない。航海の間に揺れて割れてしまったら元も子もないのだ。
そう考えると、いくら新規航路で多少は航海が短くなるにしても、一般市民用の普通使いの食器として売れる値段で仕入れられるほど、安いか?
「まあ、そこら辺は商会の人間が興味を持ったら要交渉ってやつだな。
一応何枚か、参考程度に買って帰ることを考えておこう」
アレクが手帳を取り出してメモを取りながら言った。
なるほど。
あちこち見て回っても、あの転移門で跳ぶのに問題ない程度の量しかサンプルを持って帰れないから、厳選が必要なんだな。
前回来た際にもっとしっかり見て回るべきだったな。屋敷船だったら幾らでもサンプルを持って帰れたのに。まあ、あの時は下手に時間をかけると拘束時間が倍どころじゃ無い規模で増えた可能性があったけど。
更に店の中を進んで生地を置いてある一角に来た。
「こっちはこう、明るい色でにぎやかな模様が人気なんだな」
さっきの食器と似たような系統の鮮やかな色で模様を描かれた生地が置いてある。
カーテンなり服なりに悪くはないかも?
服にするならデザインを工夫しないと変な感じになるかもだが。
「カーテンはそうそう買い替える物でもないからなぁ」
アレクがちょっと悩まし気に生地を見ながら言った。
服用には考えてないのかな?
「ソファカバーとセットなカーテンを売り出してみたら面白いかも?
かなり一般的に使うカーテンやソファカバーと印象が違うから、合わせたら面白そう」
シャルロが提案した。
へぇぇ。
カーテンとソファカバーを揃えるねぇ。
面白いかも?
とは言え、それだって新婚とか新しい家に引っ越した際にしか買わなそうだが。
でもまあ、ある意味カーテンを売り込む際の強みになるかもだな。
「要検討だな。というか、担当の人間をこちらに来させるべきか。
意外とザルガ共和国経由で入って来ていなかった商品が多かったんだな」
アレクがメモを取りながら呟く。
まあ、今見ているのは一般市民用の普通使いな物だから、わざわざ南方諸島経由でぐるっとザルガ共和国まで回ってそこから北上してアファル王国へ売りに来て元が取れるかは微妙なところだったんだろうな。
高級品として単価が高くないと、うっかり一部の商品が破損しただけでも赤字になりそうだ。
魔具も置いてあったがどうせこういう新品を売っている店の正規な魔具は魔術回路も特許申請されているから、俺たちが活用できるモノではない。
アイディアとして面白いのがあったらそれを拝借して俺たち流な物を売り出せるかもだが、既存の魔具をパクるのもなぁ。
という事で、次は雑貨の中古屋を見に行こう。
そういえば、ジルダスと違って蚤市場は休息日にしか開催されていないと云ったな。
中古屋で面白い昔の魔具とかがなかったら、次の休息日にでも来てみたらいいかも?
シェイラも誘ってみるかな?
カーテンとかの生地も、国によって意外と傾向が違いますよね