1285 星暦558年 橙の月 24日 保存(5)
「で?
どんなブツを探しているんだ?」
ガキ(ペグと呼ばれているらしい)が尋ねる。
「この港に来る商人が買って行くこの街のお勧め品、船乗りがよく買うようなお土産、あとは日常品かな」
アレクが指を折りながら言った。
「そう言えば、蚤市場はあるのか?
骨董品とかどっかの遺跡からの発掘品を売っている場所があったらそこもちらっと見てみたいな」
俺が口を挟む。
今日この場で買うつもりはないが、後でシェイラを案内する為にも、場所は聞いておく必要がある。
「蚤市場なら休息日に東の広場に皆が持ち寄って適当に露店を開いて売っている。
骨董品は後で何軒か見せるが、俺は入れないぜ。
遺跡からの発掘品は骨董品の店にいくつか偽物が並んでいる程度じゃないか?」
ペグが顔を顰めながら言った。
ゼリッタの周囲には遺跡がないのかな?
ジルダスだってすぐ側に遺跡がある訳ではないが、どこか内陸部にある遺跡の最寄りな大都市がジルダスらしく、その遺跡から流れてくる発掘品とその模造品があの街の蚤市場や骨董品屋で売られているのだろう。
「取り敢えず、新規な取引先を探している普通の商人が買い付けに行く様な、品揃いが良くて値段も良心的な店を教えてくれ」
アレクがパンパン!と手を叩いて言った。
蚤市場はアレクも好きだが、優先順位は低いらしい。
……そう言えば、呪器を探すんじゃなかったっけ?
うっかり普通の新しい街での散策っぽい事をアレクが言ったから忘れていたが。
「そう言えば東大陸には呪器が多いって聞くけど、あれって普通の店でも売ってるの?
僕たちの来た西大陸は呪器は基本的に販売禁止だから入手しようと思ったら裏通りの怖いお兄さんに声を掛けなきゃいけないらしいんだけど、ここはどうなのかな?」
シャルロが歩き出したペグに気楽な感じに尋ねる。
「呪器?
絶対に効果を発揮して欲しいなら顔役に紹介料を払って注文しなきゃいけないらしいな。
当たり外れがあっても良いんだったら普通の雑貨の中古屋にも色々と売ってる。
効き目は千差万別だがな」
ペグが振り返りもせずに応じる。
雑貨の中古屋ねぇ。
呪器って誰かに呪詛を掛ける道具な筈なんだが、既に一度使った後の中古でもまだ新たに人を呪えるのかが問題だな。
呪う相手は誰でも良くて効果も比較的弱いのだったら中古でも良いんだろうが、特定の相手に絶対に呪詛を掛けたい様な場合は裏経由の特注になり、そう言うのって効き目が強い代わりに対象も限定していて、中古じゃああまり効果がない可能性が高そうだ。
「こう、人をずっと眠らせるような呪器はどうなんだ?」
ペグに尋ねる。
「千差万別さ」
その言葉が好きなのか、ペグが肩を竦めながら先程の言葉を繰り返した。
ふむ。
取り敢えず普通の店や中古屋で見かけたら試しに買ってみるか。
「新品の汎用な呪器は普通には売ってないんだな?」
アレクが確認する。
「一応、この街では呪器や呪詛は違法だぜ?
中古なら『知らずに購入した』とか『貰った』って言えば軽い罰金で済むけど、流石に店で新品を売るのは誤魔化しにくいから罰金の額が大きくなるから、新品の店ではどこも目につく場所には置いてないよ。
金持ち用の店の裏まで入れるなら買えるらしいけど」
そんな伝手と金があるの?という顔をされた。
難しいな。
だが、考えてみたら、あんなしょぼい港町の町長が持っていたのだ。
そこまで入手が難しそうではない気がするが……まあ、代々港町のトップをやる様な家系だったらそれなりに伝手があるのかも?
あのアホ娘の兄はもっと大きな街の有力者に気に入られるだけの能力があるという話だし、あの父親だってそこまでバカじゃあなかった。
ここで入手出来なかったら、あの街に行って買い取れる中古品でも無いか、聞いてみるかな?
いや、あそこは暫くはちょっとアファル王国の商業ギルドや王宮が色々と見張っている可能性があるから、ジルダスで顔役にでも持ち掛ける方が良いか。
ゼブが欲しがる物がありそうだったら実物と、それの対抗手段用の呪器なり魔具なりを買い取れないか、持ち掛けるのが良いかも。
まあ、まずはこの街で探してみよう。
ついでに骨董品店も覗いてみて、何があるか確認しておこう。俺には骨董品の良し悪しは分からんが、シェイラは興味を持ちそうだ。
金持ち用の店の裏に忍び込むのは……やめた方がいいか。
後日シェイラと遊びに来た時に報復襲撃されたら困るしw