1282 星暦558年 橙の月 24日 保存(2)
ゼリッタは今まで使った転移門で一番遠かった。
「かなり魔力を取られた感じがするな?」
領事館モドキな建物に設置された転移門がある部屋から出ながら、シャルロとアレクに言った。
「確かに」
アレクが頷く。
「余程魔力に自信があるか、誰かに本国側で手伝ってもらうんじゃない限り、人や荷物と一緒に王都から一気にここへ転移するのはお勧めしないよ〜。
一昨日二人役人を連れてきた魔術師は、魔力が枯渇して真っ青になって暫く歩けなくなっていた」
転移門のサポート要員としてこっちに派遣されていると思われる魔術師のおっさんが楽し気に教えてくれた。
「うわ、二人連れてくるだけで魔力枯渇??
それは凄いね。帰りは大丈夫だったのかな?」
シャルロが目を丸くしながら言った。
「まだこっちでバタバタ忙しくしているから帰りのことを考えているのか知らんが、役人達はお土産とか参考商品とかを買い集めているらしい。まあ、魔術院に手数料を払えば俺に魔力提供の支援を頼めるから、そうするんじゃないか? 誰がそれを払うのかは揉めるかもだが。
行きだってケチらずにそうすれば良かったんだが、平均的な魔術師一人でどの程度運べるか、確認したかったんだろうな。
ケチりたいんだったらジルダスへ行って、一晩あそこで休んでついでに街の蚤市場でも散策して楽しんでから王都に帰ればいい」
おっさんが教えてくれた。
魔術師に魔力支援を頼むとそれなりに高くつくが、ジルダスの領事館で3人宿泊するよりも高いのか。
まあ、考えてみたら競争相手的なルートがそう動くことなんだもんな。
ゼリッタでの魔力支援の相場は暫くジルダスの宿泊費と連動して動かないだろう。
今までなんで街によって転移門を使う魔力の値段が違うのか不思議だなと思っていたんだが、こうなってみると最寄りの都市からの距離とかじゃなくて代替の移動手段の有無やそれに掛かる時間、費用等の兼ね合いで決まっているんだな。
ジルダスはそこまで転移門の利用がきつい感じじゃなかったし、それなりに領事館も大きくなってきたから常時魔術師が2、3人いる筈だが、こっちは街自体は大きいがまだ領事館の役割や組織構造そのものもはっきり決まっていないみたいだし、ここに派遣される魔術師の人数は少なそうだ。
ゼリッタはジルダスから南に3、4日航海した程度な感じだったのに、意外と距離と負担が大きくなった。
まあ、こないだは探し物をしながらとは言え俺たちの屋敷船での3、4日ってそれなりな距離だからしょうがないか?
「そうなると大人数でこちらに来たら、王都からの行きは金で何とかなるが、帰りは魔術師を何人か連れてくるか、じゃなきゃ何回かに分けてこちらのサポート係の魔術師の魔力が回復するまで待たないといけないのか?
魔術師は何人ここに派遣されているんだ?」
アレクがちょっと微妙な顔をして尋ねた。
何かすごくいい商機があってシェフィート商会の幹部を連れてくるにしても、2人以上になったら帰りが厳しいかもっていうのは困ると思っているんだろうな。
「最初は俺一人だったんだが、それなりに人が来るからもう一人若いのを派遣してもらったところだ。
それでも役人とかが沢山くる場合は魔術師を連れてこないと帰るのに2、3日かかるぞ~と本国に警告している」
おっさんが言った。
新しい領事館だし、色々と新規取引をしたいと張り切って商業ギルドとか王宮の人間が来ているのかな?
とは言え、この負担だったら転移門を使った商品の運搬はそれこそ宝石とかめっちゃ高価な魔具とかじゃない限り、現実的じゃあないだろう。
船を使うとなったらそこまでここの領事館が重要かね? 今までの交易と同じな気がするんだが。
まあ、今まで西大陸の南側からの航路でザルガ共和国の船が運んで来たのを購入していたのが、これからはジルダス経由でアファル王国の船が直接売買できるようになるのだ。
中抜きが無くなったらかなり儲けが大きくなるのかも?
ますますザルガ共和国に嫌がられそうだが。
ザルガ共和国は商売の邪魔になるから戦争を嫌うって話だが、アファル王国がザルガ共和国との交易をどんどん止めて自国の船で全部賄うようになったら、あの国との関係がますます冷え込みそうだ。
これでアファル王国が他国でのザルガ共和国の商売を横取りするようなことをし始めたら、マジで戦争の危機になるかも?
王宮の人間だってそこら辺は分かっているだろうけど。商会とかが欲をかきすぎないようにちゃんと釘を刺すと期待しておこう。
……一度、学院長にでもそこら辺を聞いてみた方が良いかな?
アレク経由で商業ギルドの考えも聞いておく方が無難そうだし。
商会が欲張ったせいでアファル王国が戦争を吹っ掛けられ、魔術師がそれで戦場に駆り出されるようなことになるのはごめんだ。
ウィル君が珍しく真面目なことを考えてる?!