1281 星暦558年 橙の月 23日 保存(2)
「保存の術とか魔道具って言ったら、食材用の保存具の活用か、停止魔術か固定化の術の空間への適用か、あの停滞化呪器の物への活用ってところかな?」
シャルロが黒板に書き込みながら言った。
「というか、考えてみたら食材用の保存具を書籍とか絵画の保存に使わないのって何か理由があるのか?
保存具って要は実用的な魔力消費量で魔具化するのに成功した停止魔術ってだけだろ?
停止魔術を部屋に掛けたりしないのって何故なんだろ?」
というか、停止魔術を強くかけると何故食材の劣化が遅れるのか微妙に不明だが、理由がなんであれ、食材が劣化しないなら紙や絵の具の劣化も防げるんじゃないかね?
「停止魔術は頭や心臓の様な体の中核的機能がある部分に掛けると考えや血の巡りが鈍くなって倒れたりしやすくなるんだ。
食材用の保存具は基本的に手を突っ込むだけだろう?
大きな部屋タイプの食材の保存は基本的に冷凍庫になっている。あっちも長時間中に居たら危険だが、入っている人間も危険性を自覚できるからうっかりぼ~としていて倒れる危険性は少ない」
アレクが説明してくれた。
「そうだったっけ?
だから家や屋敷船の食糧保存庫には殺虫と冷却と除湿の術が掛けてあるだけなのか」
保存庫ほどの強度は無くてもゆるく保存用に停止魔術を掛けても良いんじゃないかねと思ったが、家や食材のことに関しては素人だから口出ししなかったんだよな。あの術を使わない理由があったのか。
「停止魔術を人間に掛けてはいけないと魔術学院で習っただろう。
当然、停止魔術を掛けた空間に人間が入るのも危険なんだ」
アレクが指摘した。
停止魔術ってそこまで即座にぴったり停止するわけじゃないから、人を倒したり止めたりするのに実用的な訳ではない。なのであまり使い道がない魔術だよな~と思ってほぼ授業を聞き流していたんだが、倒すのに使えなくても危険にはなりうるのか。
「そっかぁ。
じゃあ停止魔術や固定化の術も空間に適用させてそこに人間が入れる形だと不味いのかぁ。あの呪器も人間に掛けちゃったら寝ちゃうし、図書室や保管用の倉庫全体に掛けるのに良さげな術がなさそうだな。
本棚や書類用の引き出しとかに術を掛ける形だったら大丈夫かな?」
シャルロが首を傾げながら言う。
「人間に使えないように何か安全機構を組み込まないと、どっかの面倒くさがり屋が一々部屋の中にある本棚一列一列に術を掛けるとか魔具を設置するより、部屋全体に使えばいい!って思いつくぞ」
そんでもって誰かが死んで大騒ぎになったらいい迷惑だ。
いくら使用説明書で注意喚起しようと、悪評が立つのは確実だろう。
「取り敢えず。
転移門でちゃちゃっとジルダスかゼリッタに行って、あの呪器を一個入手して対象を物にして、生き物には効かないように出来ないか弄ってみないか?
一応研究用に持っているだけならバレなきゃ大丈夫だろう?」
というか、人間じゃなくて物用に使うって言ってもバレたらヤバいのかな?
「人間に使えないようにして、大元の呪器を始末しちゃえば僕たちが画期的な新しい魔術回路を発明したってことでいいんじゃないかな。
呪器に使われている魔術回路は特許申請されてないよね?」
シャルロがにっこりと笑いながら提案する。
呪器に特許申請はないよね、多分。
いや、あっちではあるのか?
「ああも大々的に呪詛を使っている大陸だから、もしかしたらモノによっては登録しているかも?
停滞とか眠らせるっていう呪詛に近い効果を持つ魔術回路が、偶然あっちの呪器のと似ていた場合にクレームが来る可能性があるのだろうかと魔術院に聞いてみるか」
アレクがちょっと考えながら言った。
よし。
「じゃあ、取り敢えずゼリッタに行くか?
ついでにちょっとあっちの魔具漁りとかをするのもありかも?」
あっちの店がどんなのがあるか見て回っておいたら、年末か年初にシェイラと遊びに行くかどうか提案する際に、何があるって説明できるしな。
前回はちょっと急いでいたし変に頼まれごとしたくなかったからさっさと出ちまって、あまり街を見てないんだよね。