1278 星暦558年 橙の月 20日 ちょっと寄り道(17)
「折角の秘密の手紙が隠されていた引き出しを蹴り壊したんですって?」
一緒に海賊船を見て回るために王都にあるシェイラの部屋に迎えに行ったら、ちょっとジト目で見られてしまった。
ちっ。バレたか。
色々と話題の転換とかで誤魔化そうとしたものの、最終的にはタルナブ教授にあの手紙がどこから出て来たのかを執拗にこと細かく質問され、結局隠し場所だった引き出しが割れたのは沈没した時ではなく俺が蹴り壊したからと自白する羽目になった。
その際に色々とぐちぐち怒られたのだが、シェイラにはバレたくないと思って今回の休息日にシェイラをヴァルージャへ迎えに行ってあっちで夕食を一緒に食べ、朝も宿から倉庫へ直行することでタルナブ教授とシェイラが話し合う機会を最低限に抑えようとしたのだ。
が。残念ながらシェイラが年末に向けて報告書の提出や予算の調整について話し合いをする必要があると経費で昨日の午後に王都に帰って来て歴史学会に顔を出してしまったせいで、俺の目論見はあえなく潰えてしまったのだ。
「それほど珍しい作りじゃなかったし、流石に何百年かも海水に浸かっていた机と引き出しじゃあ売り出せないんだから、壊したっていいだろ?
持って帰って来るつもりもなかったし」
ちょっと簡単な工夫をしてある程度で、そこら辺の大工でも出来る程度の細工だし、机自体の作りもそれほど良くはなかったから歴史的価値だってさしてないと思うぞ?
少なくとも、セビウス氏だってあれが壊れてなかったとしても家具としての価値は大したことは無いというのは認めていたし。
「本物の海賊船から出てきたと思われる、まだ使えたかも知れない家具なのよ?
歴史学的な意義は大してなくても、欲しがる人間は絶対いるでしょうに」
シェイラが指摘した。
ちなみに、船を持って帰ってきたことで学者たちが色々と頑張った結果、船の名前が分かった。しかも色々と資料を調べてくれたところ、ちゃんと(?)年ほど前にザルガ共和国の海域とかを荒らした記録もある海賊船だと判明したのだ。
残念ながら手紙の方は訳文を俺たち三人で何時間も掛けて色々議論したものの宝の隠し場所っぽい暗号は見つからなかったけど。
そう考えると。
「確かに、海賊船から出てきた家具という事でセビウス氏も彼個人として入手してもいいかもと言っていたな」
大金を出すという雰囲気ではなく、単に薪にするぐらいだった欲しいなという程度だったが。
「男は特に昔の海賊船とか好きだからね~。現代の海賊だったらさっさと縛り首だ!!というような商業ギルドの人間でも、子供の頃は海賊の隠された財宝が出てくる絵本とかにわくわく心を躍らせた連中も多いのよ?
海賊船から回収された家具だったら歴史的価値は大して無くても、ロマン的な価値として売値がつくんじゃないかしら」
シェイラが言った。
なるほど。
却って金を掛けた作りの交易船や客船なんかよりも海賊船の方が夢があって興味を感じるという貴族や豪商なんかが居そうなんだな。
以前引き揚げた豪華客船の家具類はほぼ全く売れなかったから今回も薪以上の価値はないだろうと思って一旦捨てて来たし、遠慮なく壊したんだが。海賊っていうのは隠された財宝系の子供用の絵本や児童用の本が色々とあるから、意外と夢を捨てきれていない大人もいるのか。
「まあ、どっちにせよ開かなかったんだから修理は必要だったんだ。
だけど蹴り壊したのを修理して、何だったらあのお別れ手紙と一緒に売りだしたら高く売れるかもだな」
政略結婚で金持ちな貴族(多分)に嫁ぐことになった女にさようならと言われてしまう手紙なんて、本人が生きていたら公開は絶対にやめてくれと言いたくなりそうなものだが、本人は死んでいるのだ。
そんなさよなら手紙を未練がましく隠し持っていたのが悪いという事で、隠し場所付きの引き出しの売り出し価格を引き上げる道具として活用させてもらっても良いか。
対訳付きだったら更に世の男の同情も引けるかも?
後でセビウス氏にロマンを感じる相手向けに沈没船の備品や家具を売りに出せないか、聞いてみようかな? 薪よりも金になるんだったら海賊好きな連中を集めたオークションをやってもいいかも。
悪事は常に暴かれるのであった……