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シーフな魔術師  作者: 極楽とんぼ
卒業後6年目
1277/1280

1277 星暦558年 橙の月 18日 ちょっと寄り道(16)

 バタバタバタ!

 ドンドン!!

 宝飾品や酒入り壺・瓶を下ろした倉庫の方でセビウス氏に今まで調べた結果とかオークションに出す際の仕分け(一気に出すと値下がりするので、何度かに分けて売りに出そうという話だった)について説明を受けていたら、何やら外が騒がしくなった。


「解読出来たぞ!!!」

 バタン!と扉の外に立っていた警備の人間を押しのける勢いでタルナブ教授と見知らぬおっさんが飛び込んできた。

 手に握っている紙は……あの謎の手紙(多分)の写しかな?


 清早が船を持ってきてくれたと聞いて突撃してきたタルナブ教授に、壊した引き出しのことを怒られる前に『どうせ船体部分しか実質残っていない木材の塊でしかないのだから、来月辺りにでも本格的に寒くなってきたら薪にして売りに出すからそれまでに調べ終わってね。ただし、昨日渡した手紙をそれまでに解読してくれたら来年まで研究し尽くしても構わないかも?』と言ったのだが。


 どうやら想像以上に脅しが効いたようだ。

 シャルロとアレクと3人の間で、いつまでに解読してくるかの賭けをしていたんだけどなぁ。

 俺としてはギリギリのタイミングになるかと思っていたし、場合によってはシェイラを使って泣き落とししてくる可能性もありかもと想定していた。アレクは数日内、シャルロは間をとって今月の25日ぐらいかも?と言っていたのだが、どうやらアレクの勝ちだな。


「おお、それは良かった。

 なんて書いてあったんだ?」

 セビウス氏も興味があるのか、身を乗り出して尋ねる。


「別れの手紙ですな。

 どうやらこの手紙の持ち主は貴族の女性と愛し合って結ばれる約束をしていたのが、女性が家の都合で政略結婚をせざるをえなくなったらしく『あなたのことはいつまでも愛してるわ。でも、家の為にはあの悍ましいデブに身を任せなければならないの。二人の愛を裏切る私を許してください』といったようなことが、状況説明の後につらつらと書いてあります」

 タルナブ教授の後ろからついてきたおっさんが答えた。


 なんかこう、『悍ましいデブ』なんて言われる夫側の人間がちょっとかわいそう?

 政略結婚ってことはどちら側の家にとっても得るモノがある筈なのに、妻は海賊になった男を愛し続けるって。

 つうか、誰かを愛しているのに家の為に割り切って結婚する女って、夫を自分のパートナーとしては認めてないんじゃねぇ? そのうち跡取りが生まれたら浮気するんじゃないかと思う俺は悲観的すぎるかね。

 元々政略結婚をすると覚悟して育ってきたならまだしも、海賊になるような身分が違う男(もしくは貧乏貴族の次男か三男?)と結婚の約束をするような女なのだ。ちょっと夢見がちで、それこそその海賊を思い起こさせるような男に上手いことくどかれたらあっさり流されそう。


 まあ、完全に俺の偏見だが。


 遥か昔に死んだ男と女の結婚事情に関して想像していたら、アレクがおっさんに尋ねた。

「ちなみにどこの文字なのか、教えてもらえますか?」


「キャルギスの旧飾り文字ですね。

 300年前ぐらいの貴族が好んで使っていた飾り文字なので、男性側も貴族の出身だったのではないかと。そんな男が東大陸の方で海賊になるなんて、意外と昔から西大陸から東大陸へ渡る人間がいたようですな」

 楽し気におっさんが応じる。


 キャルギスって言ったら元々ノルダスとアファル王国の間にあった国だよな?

 海沿いの一部をデメナータに奪われて国力が落ちて今ではあまり交易国としても有名じゃなくなったが、昔はそれなりに広範囲で交易に力を持っていた国って聞いた気がする。


 それこそ、広範囲で影響力を持っていたから恋人を失った男は東大陸まで流れてそっちで海賊になったのかね?


「じゃあ、海賊の宝とか貴族の家宝とか、そういう面白そうな物の隠し場所みたいなことは言及なしなんだ?」

 ちょっとがっかりしながらも、一応確認のために尋ねる。


「貴族の女性が書いた手紙なのは間違いないと思うので、そのような宝を隠せる立場になかったと思いますね。

 若い男女の悲恋の一例を表す手紙と言っていいでしょう」

 おっさんが俺の希望をあっさり切り捨てた。


 ダメかぁ。


「キャルギスの飾り文字だったら現代のアファル王国の言語とそれ程違いはないですよね?

 出来るだけ一字一句の対訳が分かるような感じに、手紙を訳して対照文をいただけますか?

 依頼料は払いますので」

 シャルロが言った。

 そうだな。

 本文をほぼ原文に近い形で読めるんだったら、何か暗号が含まれていないか俺たちでもうちょっと研究してみてもいいだろう。


「分かりました」

 おっさんが頷いた。

「では、ちゃんと訳が出来たのだから、あの海賊船の調査は後1年間は自由にやって良いのですな?!」

 タルナブ教授が身を乗り出して言ってきた。


「ええ、どうぞ。

 出来れば船の保管場所を歴史学会の方で手配してもらえるとありがたいですが」

 アレクが応じる。

 そうなんだよなぁ。

 保管用の倉庫の費用だけでも払ってもらえないかな?






実は単なる火遊びの相手を追い払う為の嘘満載な手紙の可能性も?

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― 新着の感想 ―
まだ海賊船だと決まった訳ではありませんよね
学者先生たち必死だなぁ。 まあ、確かに船の構造的な意味で研究資料としては一級だが。 (ガレー船と帆船の関係や、ラムアタックを使ってたかとか色々分かることが多いし) しかし、また不倫関係の手紙か。 どっ…
そんな手紙に見せかけた宝の隠し場所の暗号なのかもしれないww バビロンまで何cm?
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