1272 星暦558年 橙の月 6日 ちょっと寄り道(11)
「空滑機で島を見て回ったが、なんかそこそこ麻薬畑を焼き払った跡っぽいのがあったね。空からの見回りは大変なんじゃないか?」
夕食時にジャレットの家で夕食を食べさせて貰いながら日中に見かけた島の様子に関して尋ねた。
島を見て回った後に一応治安部隊のところに行って空滑機の整備を手伝おうかと提案したのだが、整備の担当はちゃんといるから大丈夫だと断られた。
なので東大陸のスラムから来た孤児たちの纏め役をやっているペブランの所に行って何か問題はないか聞いたが、彼らもそれなりに上手くやっているらしい。
まあ、元スラムの孤児となると生活水準と仕事の報酬に対する期待値が低いからな。余程酷い扱いを受けない限り『酷い目にあっている』と返事がくることはないだろうとは思っていたが。
読み書きを教えて貰ったり、何か職業に就きたいと希望したら弟子入りっぽい感じで下働きから始めさせてもらえたり、それなりにやる気があるやつは『孤児』という最下層の暮らしから脱する切っ掛けを提供されているらしい。
お陰でパストン島の噂を聞いて船に密航してきたり、なけなしの金を払って渡航してきた孤児がちょくちょく島に辿り着いても、丁度いい感じな補充になっていると言っていた。
ペブランから聞かされた話の事を考えていたら、ジャレットが肉を切り分け終えてちょっとため息を吐いた。
「あれなぁ。
この島では取り締まっているから販売は殆ど出来ていない筈だと思うんだが、東大陸で売るのに便利らしくて。
どうも、気候的に東大陸本土だと乾燥しすぎているせいで隠れて育てるのが難しいから、環境が適している上にそこまで目立たないパストン島が穴場として狙われているらしい」
顔をしかめながらジャレットが言った。
「なるほどね。
程よく暖かく、水気が多い環境が必要なのか。
贅沢な草だな」
アレクがちょっと冗談っぽく言った。
確かに?
『程よく暖かくて水も潤沢に』って植物だったら大体どれも欲しがるような環境だよな。
だからこそトウモロコシとかもいい感じに育っていてるんだろうが、それが麻薬の元になる草にも適しているというのはちょっと皮肉だ。
「まあ、最近は広告用気球を使って常時島の周辺の海を確認しておいて、規定の入港場所以外で島に近づく船には警告として空滑機改から火をつけた油入りの壺を投げ込むようにしたからね。
港の方では犬と一緒に常時巡回しているし。
徐々に減ってきているようだよ」
ジャレットがニコニコしながら教えてくれた。
火のついた油入りの壺が警告なんだ。中々過激だね。まあ、穏やかな警告じゃあ埒があかないってのがここ数年の結論になったんだろうな。
「警告するのはもうやめて、問答無用で火をつける方に舵を切ったんだ?」
「警告しに行った人間が攻撃されるだけだからな。
畑も見つからない様に森を切り開かずに育てるのでは収穫量が悪いらしいし、最近はやっと割に合わないと判断してくれる連中が増えてきたみたいだ」
ジャレットが言った。
割に合わないと判断する人間が増えたというよりは、割に合わないと理解できるだけの情報収集力か理解力のある奴ら以外は駆逐されたってところかな?
まあ、馬鹿はどこからでも湧いてくるから、多少は楽になるにしても終わりはない戦いではあるだろうが。
「そういえば、異文化研究が趣味の人とは連絡がとれた?」
シャルロが尋ねる。
「取れて、見せたが、ダメだった。
北の方の少数民族に残る伝説が書き記されていた古文書の文字に似ている感じがしないでもないが、個人の癖か、気のせいかともいえる程度の類似性らしくて、全く意味は分からないそうだ」
ジャレットがちょっとがっかりした顔で言った。
北の方ねぇ。
シェイラよりもオーパスタ神殿遺跡で発掘しているハラファ達の方が何か知っている可能性もあるかも?
まあ、考えてみたらシェイラは出来る女だけど、考古学的な知識としてはチームの責任者になるようなハラファの方が色々と知っているんだろうし、あっちに先に聞きに行くべきかもだな。
シェイラは後回しになるかも?!