1270 星暦558年 橙の月 6日 ちょっと寄り道(9)
結局、あの後も探し続けたが謎の紙以外は特に興味深い発見はなかった為、一昨日で完全に海賊船の探索を終え、昨日1日海底を進んで、今朝になってパストン島の港に入港した。
行きにはちょっと顔を出して何か新しい情報がないか聞いただけだったので、他の情報共有も含めてジャレットに会いに行き、昼食を一緒に食べることになった。
パストン島で育てているトウモロコシの粉にしたものや、それから作った焼き菓子などをパディン夫人が新鮮な食材の補給ついでに買い出しに行っている。
「え、呪器を使って入港した外からの人間を全員眠らせていた??
滅茶苦茶だなぁ。
でもまあ、全員無事でよかった」
ガヴァール号に関してざっと話したらジャレットが目を丸くしていた。
「小さな港町だった上に他にも3隻ほど交易船を拘束していたからそっちへの補償もあるだろうし、下手に金を請求して争いになりそうな近隣の街との紛争に参加してくれと言われても面倒だという事で、暫くゼリッタと行き来するアファル王国の船への補給を割引するということで話がついたらしい」
アレクが付け足す。
考えてみたら、ガヴァール号が本国に帰る際にパストン島に寄るだろうから、その際に詳しいことを聞けばいいだろう。
「で、僕たちの依頼は完了ってことになったから、ついでに帰りにここまでの海底に沈没船が無いか、探してきたんだ~」
楽し気にシャルロが付け足す。
「おお~。
楽しそうですね」
ナイフで器用に魚の骨を取り分けながらジャレットが言った。
俺は最初から魚の骨なんぞ対処したくないから骨のないフライを頼んだのだが、なんでも骨付きで煮込んだ料理は凄く美味しいらしく、根気があるなら是非お勧めだとジャレットが言っていた。
アレクは肉を頼んでいたが、シャルロはジャレットのおすすめ料理を頼んでいた。
めっちゃ器用にフォークとナイフで骨を奇麗に取り分けて食べている。
流石貴族のおぼっちゃま。学生時代から一緒に寮にいたのだから、あれって14歳になる前にはしっかりこの食べ方を仕込まれているってことだよなぁ。
貴族の子供って大変だ。
俺も魔術学院に入った際に寮でフェンダイとかアレクとかに食べ方を事細かく修正されて一応見苦しくないところまでいったが、今でも時折シェイラに注意されることがある。
まあ、面倒な魚とかを頼まないから最近は特に問題ないんだけどね。
「東大陸から離れて大海の方へ出る船が少ないのか、漁船以外はあまり見かけなかったんだが、パストン島からちょっと離れたところで海賊船っぽい船を見つけてね。
あまり面白い発掘品的な発見はなかったが、多少の宝飾品と瓶や壺が割れていなかった酒が幾つかと、良く分からない紙が見つかった」
アレクが言った。
あまり宝を見つけたなんて広げない方がいいとは思うが、ジャレットだからな。
信頼しても大丈夫だろう。
俺たちを襲っても絶対に勝てないと分かっている筈だし。
「そういえば、この文字って何か分かる?」
シャルロが転記の術で複製した謎の紙の写しをジャレットに見せた。
もしかして東大陸の僻地の国や文化の文字だったらパストン島にいるジャレットの方が王都の人間よりも見覚えがある可能性もある。
「うう~ん?
文字そのものが我々が使うのと違うなぁ。
ちょっと見覚えがあるような気がしないでもないが……試しに他の人間にも見せてもいいか?
契約担当の人間が確か異文化研究が趣味なんだ」
ジャレットが写しの紙を色んな方向から見てから言った。
方向を変えてみても、文字を知らなかったら読めないことに変わりはないと思うぞ?
「明日の朝には出航するから、今日中に分かるならいいぞ」
午後にちょっとパストン島を見て回る予定なので出航は明日だが、それ以上ここに残る予定はない。
ついでにパストン島の帳簿の確認とかをするかとアレクに聞いたのだが、抜き打ち的にさらっと見るつもりだがしっかり調べるのは新年後にするから半日で構わないと言われた。
それでも調べるなんて、相変わらずまじめだなぁ。
俺は空滑機でちょっと島の上空を見て回って変な基地とか隠し畑っぽいのが作られていないか、確認だけしておこう。
田舎の離島に古代文明の文字を解読できる人物がいるか?!