1269 星暦558年 橙の月 3日 ちょっと寄り道(8)
甲板下の部屋を順番に回って壺や瓶のうち、振って液体が入っている音がしないものを全部開けてみたが特に面白いものはなかった。
なので次に士官たちの部屋を回る。
やっぱ船の中の部屋って小さい。
船長室だけは魔術学院での寮の個室ぐらいのサイズがあったが、他の部屋はそれの半分ぐらいで、ハンモックで寝ていたのかベッドはなく、フックが壁に付けてあるだけだった。
一応箪笥っぽい家具と椅子や机はあったが。
でもフックの位置と部屋のサイズ的に、ハンモックから落ちたらどれかの家具にぶつかってそれなりに痛い思いをしたんじゃないかなぁ?
それとも士官になる程のベテランだったら、どれだけ船が揺れてもハンモックから無様に落ちたりしないのかね。
海賊だったら貴族や大商会のおぼっちゃまが伝手で押し込まれるって事はないだろうから、士官は皆ベテランな筈。なんのベテランかはあまり考えない方が良さげだが。
「お?
この机、引き出しが短く作られてる」
羅針盤っぽいものが置いてあったので航海士らしき奴の部屋と思われる場所にあった机の引き出しを心眼で確認して、面白いことに気づいた。
机の一つについている引き出しにちょっと細工がしてあり、しっかり閉めた引き出しの奥に隙間があり、そこに瓶が隠してあるのだ。
「へぇぇ、引き出しを二重底にするんじゃなくて、奥にスペースを作ったんだ?
何が隠してあるの?」
シャルロが床にしゃがみこんで覗き込んだ。
引き出しの支えっぽい板が打つけてあるから下から覗きこんでも見えないようになってるぞ。
「海水でちょっと膨張しているから動かしにくいな。
たたき割っちまうか」
引っ張り出した引き出しが動かなくなったので、下から蹴り上げて引き出しを壊し、破片を取り外して奥の空間に隠してあった瓶を取りだす。
船を王都まで持って帰るならこんな乱暴なことをすると歴史好きな人間から拳骨を貰いそうだが、どうせ船は持って帰らないのだ。
海底に残している船の中に残る家具がどうなろうと誰も知らないんだから、ちょっと荒っぽく壊しても怒られないだろう。
取り出した瓶は通常のワインの瓶より一回り小さいが、しっかりコルクの栓がしてあったが中に水は入っていないようだ。
瓶に栓をするのに中に酒を入れないとは、不思議だな。
アレクが屋敷船から持ってきたワインオープナーを使ってコルクを外し、瓶をさかさまにした。
「……紙だ!!!!」
いやまあ、考えてみたら態々ここまで隠して密封した瓶に入っている液体じゃないものとしたら、紙以外はあまりあり得ないんだろうけど、ちょっと興奮した。
「何が書いてある?!」
ぐんっとアレクが興奮したように顔を近づけてきた。
おや。
もしかして、セビウス氏の沈没船好きは家系的なものだった?
「なになに??!!」
シャルロも俺を押しのけて紙を覗き込んだから、海賊船の隠された紙っていうのは誰でも好きなんだろうな。
「……地図では、ないな」
ぺらっと紙を広げてみたところ、ずらずらと文字が書いてある。
手紙っぽい感じかな?
読めないが。
「う~ん、暗号?
でも、暗号でも意味が滅茶苦茶で通じないならまだしも、文字そのものに見覚えがないよね、これ。
昔の古文書のラブレターか、脅迫できるような重大なことが書いてある手紙か、もしかしたら遺言書みたいなもの??」
シャルロが首を傾げながら言った。
「歴史学会にでも調べて貰うか。
となると、船の名前の部分だけでも、切って持っていくべきかな?」
アレクがちょっと考えてから言った。
「う~ん。海賊船の船の名前なんて、記録に残っているかぁ?
もう、諦めてそれこそ歴史学会に寄付しちまったらどうかな?
じゃなきゃ海賊船から見つかった古代のラブレターとでも銘打ってオークションで瓶ごと売り出すとか」
地図だったら海賊のお宝さがしをやる気は十分あるが、ラブレターとか遺言書とか脅迫用素材だとしたら、今更あまり価値はないからそれ程興味は湧かないんだよなぁ。
これが日記帳とかメモ帳だったら解読したらお宝の場所とかせめてこの船の本拠地の場所とかが分かるかもって事でそれなりに面白そうだけど、ぺらっと1枚の紙だからなぁ。
「まあ、取り敢えず瓶ごと持って帰って、歴史学会の誰かにこれの解読が出来ないか聞いてみようよ。
全然ダメだったらオークションで売りに出してもいいし」
シャルロが提案した。
まあ、そうだな。
他にどこか、誰かが面白そうな隠し物をしてないかなぁ。
地図だとしても大雑把な場所が分からないと探しようがないとは思いますけどねw