1267 星暦558年 橙の月 3日 ちょっと寄り道(6)
甲板下の部屋を見て周り終わって、次に探した船長室と思われる部屋にはかなり頑丈な宝箱的な箱があった。
がっしりとした鍵もついていたが、長年海水に使っていたせいで素材がボロボロになっていたのか、解錠するのに都合がいい角度に動かそうと箱のてっぺんに手を乗せてちょっと引っ張ろうとしたらあっさり蓋部分が割れて中身が見えた。
「おお~。
海賊船って船長が宝の大部分を貰うんかね?
それとも皆の分もここで集めておいて、拠点に着いたら分配するのか」
割れた蓋を外し、中を覗き込みながら海賊の利益配分に想いを馳せる。
下っ端の船員なんぞ、甲板下の大部屋で雑魚寝(ハンモックを使っているかも)だろうから、プライバシーなんぞ皆無に等しい。そうなると、自分の服のポケットに入れていられる分以外の宝なんぞお互い盗み盗まれ放題だろう。
下手に利益分配なんぞしたら、拠点に帰る前に仲間割れで何人死ぬことになるか、分かったものではないな。
そう考えると、拠点で配る方がいいかも知れないな。
とは言え、拠点で宝石とかを換金化できるか怪しいから、どこぞの大きな港に普通の交易船の顔をして入港した際に分配して、好きなように使えという方がいい気もする。
……海賊って奪った宝をどうやって使うんだろう?
こうやって実際に見てみると、軍艦っぽい形なのに軍艦じゃない船って普通の港に入ったら海賊船なのがもろばれだろう。
そうなると、補給や換金や買い物をするために入港できる港なんて限られていそうだ。
まあ、領主なり町長なりに袖の下を渡しておけば見て見ぬふりをしてくれるところも多い気もするが。
もっとも、海賊が多い時代や海域だったら交易船も積載量重視であまりノンビリ航海していたら毎回襲われて根こそぎ積み荷を奪われた上に下手をしたら船員たちも奴隷商人に売られかねないから、海賊が多発すると交易船も海賊船に似た構造になってくるのか?
最近はそれなりに平和で海賊も比較的に少ないみたいだから、交易船はデブで積載量が大きいのが多いだけなのかもだな。
それはさておき。
「自分の船室がある士官クラスはそれなりに貰えて、大部屋で雑魚寝する下っ端はどこぞの港に入った時に酒を飲んで女を買って羽目を外す程度しかもらえないんじゃないかな?
後からこれを下っ端に分けるにしても、微々たる量だったと思う」
俺の言葉にアレクが応じる。
そうだよなぁ。
下っ端にたっぷり財産を後から分ける上なんて、まずいないだろう。
海賊船の船長がこんな風にため込んだ富をどうするのかも興味があるところだが。
どこかにこっそり別荘でも買って老後の蓄えにしておくのか、それとも冒険談とかに出てくるような感じにどこかの洞窟へ隠したまま、死ぬのか。
老後の為にため込んだ財宝をちょうど使い切って死ねるほど平和に引退できた海賊船の船長があまりいないからこそ、有名な海賊の隠し財産というのがロマンとして色々な絵本や小説に出てくるんだろうなぁ。
「中々奇麗な装飾品や宝石が出て来たねぇ。
交易船を一隻襲っただけでこれだけの財宝を得られたとは思えないから、この船長さんは自分の船に常に宝を持ち歩いていたんだろうね~」
シャルロが大きな宝石をちりばめた金のブレスレットを手に取りながら言った。
「だなぁ。
それなりに作りとかも違うし、金を儲けた際にあちこちで蓄財用に購入した宝石類とかもありそうだな」
もしくは襲った船の出航元が様々に違って、運んでいた宝石類も色々と種類があったのか。
「この海賊は自分の船に常時財宝を持っていて、一緒に沈んだようだな。
そうなるとお宝の隠し場所の地図は無いだろうが……一応他の連中の部屋も探して、最後に壺や瓶を開けて回ろうか」
アレクが部屋の中の他の部分を見て回りながら言った。
「だなぁ。
そこそこ上手くやっている海賊だったみたいだから、航海士とか副船長とかもそれなりにざっくざくかも?」
ベッドの下に隠されていた小箱を取り出しながら応じる。
箱の中にはそこそこ造りの良いナイフと、紙の残骸だったらしき泥っぽい物と硬貨とばらの宝石が幾つかあっただけだった。
こっちは非常時に持ち出す用の箱だったのかな?
流石にあちらの大きな宝箱は一人で持ち出すのは無理だから、もしもの時に急いで持ち出すのはこっちだったんだろう。
これも沈む前に持ち出せなかったようだが。
海賊の宝ってロマンだけど、溜め込んで死んだ海賊よりも、リタイアして数年で破産する海賊の方が多そうw