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シーフな魔術師  作者: 極楽とんぼ
卒業後6年目
1257/1291

1257 星暦558年 黄の月 27日 頼まれごと(20)

「おはよ~。朝だぜ起きろ〜」

 清早に部屋にいる人間全員から睡眠薬とかの成分を抜いてもらい、入り口にあった呪具を止めて、フェンダイと取り敢えず揺り起こした。


「おう。

 ……前回起こされたのって昨晩だったよな?」

 暫くぼ〜と俺を見つめたフェンダイが、ちょっと眼をしょぼしょぼさせながら体を起こした。


「おう。

 幸いにも下でアホ娘が父親の乗っている船はまだか~!!って騒いでいたお陰で船の名前が分かったし、そのヴァルパック号もかなり近くまで来て停泊していたんだ。なんで夜の間にここの港の外まで引っ張っておいたら、快くフェンダイ達を拘束したお詫びにガヴァール号の補給をただでするという合意書に署名してくれたよ。

 港の方でどこぞの爺さんが今その手配をしていると思うから、さっさと皆を起こして出ようぜ」

 他の連中も軽く肩を揺すって起こして回りながら答える。


「補給だけで許すことにしたのか?」

 フェンダイが首の後ろを揉みながら微妙な顔をした。


「この港の連中は隣町からの侵攻を受けるかもと現在一杯一杯な状態なんだよ。

 うっかり隣町からの婿を死なせたからってパニックして、港に入港した交易船を全部拘束するなんて言う突拍子もないことをするぐらいに。

 やっとちゃんと意思決定が出来る町長が帰ってきたのは良いけど、下手に拘束されたことに関する補償金を要求すると……隣町との対処に協力してくれないと金を出せる前に街が潰れる~って泣き付かれるぞ?」

 積み荷がダメになって損失が出たとかならまだしも、今回はアファル王国的には俺達を雇った費用しか出費はなかったに等しいのだ。


 その分を交渉したいなら、取り敢えず俺たちが居ないところでやってくれ。

「あ~。

 ウィルたちは日当契約なのか?」

 フェンダイが尋ねる。


「成功報酬と日当との組み合わせだな。

 沈没してて見つからなかったらその分報酬が減るところだったから、フェンダイ達が生きててくれてよかったよ」

 とは言え、シャルロの日当は高いからね。交渉に日数がかかって日当がかさんだら、こんなしょぼい港町ピューナンが払える金額なんぞあっさり超えるだろう。

 しかもピューナンはこれから隣町との紛争があるかもだから傭兵か何か戦力を雇う必要があり、足止めしちまった二隻への補償もしなきゃだし。

 今すぐ払える現金はほぼないだろうから、補償に合意しても分割払いだし、町が無くなったらそれも受け取れないからとなし崩しに隣町との紛争にも協力する羽目になりかねない。


「アファル王国の船を不当に拘束したのに、罰則を受けないなんて事例を作る訳にはいかんぞ」

 途中で目が覚めて話を聞いていたらしき商業ギルドのおっさん(多分)が口を挟んできた。


「そんなこと言ったって、あっさり士官相当全員が睡眠薬で眠らされたこちらもうっかりしていたとも言える。

 しょぼい港町から搾り取れる金なんて、たかが知れてますよ?

 補給を多めに無料で受け取ってさっさと出航した方がいい」

 筋肉ハゲが奥のベッドから発言する。これが船長のデブラスかな?

 見た目よりも大分と知性的だな。


「そうそう、シャルロ・オレファーニと俺が居れば確かにしょぼい港町の一つや二つはあっという間に制覇できるとは思うけど、制覇したところでこんなところを維持する軍事力を割くつもりは本国にもないでしょう?

 だとしたら制覇するだけ無駄だろうし、使うつもりがない脅しなんて振りかざしても時間の無駄だ」

 俺も付け加える。

 ある意味、俺たちが救援に来なければ町長ペストリオが戻ってきた段階で皆が順番に起こされて交渉し、適当な補償に合意していくって流れになったと思う。

 アレグ島にあるアファル王国の軍船のことを脅しに使って、この町が払えるギリギリの金額を搾り取るのも可能だったかも。

 だが、何といっても俺とシャルロが来ちゃったからねぇ。

 軍船なんか目じゃない力が目の前にあるのだ。

 ペストリオはどうしたってそれを利用しようと欲をかくだろうし、それを使う気がない相手だったら、これから使う用途が死ぬほどある金を今すぐに払うのに合意しないだろう。


「シャルロ・オレファーニ?」

 商業ギルドのおっさんが首をちょっと傾げる。

「高位水精霊の加護持ちなオレファーニ侯爵令息ですよ。

 国がどれだけ日当を払うと合意したのかは知れませんが、この状況で小さな港町から破綻しない範囲で絞り取れる金額より大きい可能性は高いでしょうね」

 フェンダイが付け加えた。


「日当制なのか!

 よし、さっさと出よう!!」

 商業ギルドのおっさんがさっと立ち上がり、慌てすぎてたせいか転びそうになったので手を差し出して助けてやる。ここでこいつが転んで大怪我して動けなくなったりしたら、大迷惑だ。


 どうやら残りの二人の魔術師と副船長らしきのっぽは口を開く気がないみたいだし、さっさと出て行こう。


 あとは出て行く際に、下でアホ娘に足止めを食らわなければいいんだけど。



船長って筋肉マシマシな脳筋イメージがありますが、それなりに賢くなきゃ収支の管理とか出来ないですよね。

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― 新着の感想 ―
眠れる港町のおっさん連中 童話にはなりませんね
おっ、フラグかい?w
シャルロ君の日当が洒落にならないことに気づいて、乗員の掌があっという間にひっくり返った(苦笑)。 あとは転移門の設置まで同行するか……した方が、何かとトラブル回避できそうだよなぁ。 何せ「海」という最…
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