1251 星暦558年 黄の月 25日 頼まれごと(14)
「ちなみにどのくらい寝ていたかとか、何回ぐらい食事を摂ったかの記憶ってあるか?」
予定より遅れたと言っても、流石に東大陸の実質未知な航路での南下なのだから、想定より1日2日遅れても誰もパニックしないだろう。
とすると、俺らに依頼が来た時点で予定より10日ぐらい遅れていたんじゃないかな?
そんでもって依頼が来た翌日に俺らが王都を出て、3日掛けて東大陸に辿り着き、南下しながら探して今日で2日目だから予定より15日程度遅れているってところか?
そんなに長い間誰かを睡眠薬で眠らせていたら下手をしたら餓死しているか、そうじゃなくてもげっそりガリガリに痩せそうなものだが、意外とフェンダイ達は普通な様子に見える。
毎日ちゃんと食事をもらっていたのか、思っていたよりもこの港町に入ったタイミングが遅かったのか。
「う~ん……?
粥を時々食べたような記憶はあるが、半ば寝ていた状態だからイマイチ不明だな」
首を傾げながらフェンダイが言う。
粥を十分食べたにしても、15日間も寝たきりになっていたら体力ががっつり落ちると思うんだが。
『この呪詛、ちょっと弱めてあるけど、元は仮死に近いぐらい体の状態を落とす効果がある呪いだから、食事もあまり要らなかったのかも? 完全に仮死状態にするとうっかり死なれちゃうこともあるけど、かなり仮死に近いぐらいの状態にして睡眠薬で眠らせておくと体にとっての時間経過がかなりゆっくりになるから、水や食事の回数も少なくて済んで楽なのかも』
清早が教えてくれた。
へぇぇ?
確かに死んだように眠りにつくって御伽話の呪いにもあったが、実在するのか。場合によっては航海で退屈しないで済むうえに、食費や水の消費量を減らせる便利な道具としても使えそうだな。
「どうも睡眠薬と重ねて掛けられていた呪いのお陰で体の時間経過が極めてゆっくりなものにされていたみたいだな。
面倒な囚人を暴れさせないとか、退屈な航海の時間を短縮するのに便利かも?」
フェンダイに清早の教えてくれたことを伝える。
囚人が暴れないのは良いが、考えてみたら囚人がうざいんだったらがっつり強い睡眠薬で眠らせればいいだけか。
仮死状態にするって寿命が延びそうな気がするから、面倒な囚人に使ってそいつを長生きさせたら捕まえている側の人件費が高くなって無駄だよな。
「悪用されたら困るかもだけど、確かに便利そうだね?
それこそ毒を盛られたり、病気になった時に治療できる人間や薬を持ってくるまで体を停止状態にする施術って、確か闇神殿の大神官に頼めばやって貰える筈だけどかのお方は気軽に頼める相手じゃないからね。道具一つで出来るなら、今回の騒動のお詫び替わりに根こそぎ貰っていってもいいかも?」
フェンダイがちょっと黒く笑った。
確かに?
悪用されないように誰がいくつ持っているかとかの管理をしっかりしなきゃだし、情報が流れ出て東大陸でこっそり購入して悪用しようなんて人間が出てこないようにしなきゃだが。
「確かに。
ちなみに、今回の蛮行をやったのは町長の跡取り?娘らしい。なんか近くの侵略的野心ありまくりな街から押し付けられた婿をうっかり殺しちまって、ばれたらヤバいってパニックしてその近くの街からの船と、そいつのすぐ後に入港したガヴァール号と、そのあと入ってきた2隻の船員を全部足止めしているっぽい。
で、そのアホな娘の父親である町長?が近いうちに帰ってくるかもって街の酒場で話が出ていたが……どうする?」
アホ娘相手に交渉してもあまり得るものはない気がするんだよねぇ。
シャルロ……というか、俺と清早でも港町ならば比較的容易に掌握できると思うが、ちゃんと頭を使って現実的な交渉が出来る相手が居ない状況で何かやっても事態が余計に面倒なことになりそうな気がする。
「確かに、小さな港町だからって入港した船と船員を問答無用で全員足止めするなんていう無茶をする相手と話し合ってもあまり得るものがなさそうだな。
ちなみに、ウィルが来ているってことは……アレクとシャルロも一緒なのかい?」
フェンダイが尋ねた。
「おう。
俺たちの屋敷船でずばっと来たぜ」
「じゃあさ、その町長が乗っている船っていうのをがばっと港まで呼び戻せないかな?
高位精霊の力で問答無用で引き寄せたら、相手も何を敵に回したか、理解してくれると思うんだよね」
にっこりと笑いながらフェンダイが言った。
「まあ、こっちの力を見せつけるっていうのは良いが……その町長の船をどうやって見つければいいんだよ?」
ジルダスの方向へ行ったって確か酒場兼食事処の二人が言っていた気がするから、そっちからくる船の名前を全部調べて回るのはちょっと大変なんだが。肝心の船の名前も知らないし。
「なんとかなるでしょ?
頑張ってくれ。
俺は……もう少し休んでいるよ。部屋から逃げ出したら色々と面倒だろうし」
フェンダイが再び寝転がりながら言った。
おいおい。
呪詛を緩めちまったから下手をしたらかなり腹が減るんじゃないか?
いや、よく見たらあの部屋の入口の傍に置いてあるのがこの呪いを掛けている呪具かな?
このままこの部屋で寝ていたら眠りに入るように仮死状態に近づくのかも?
俺が平気なのって清早が守ってくれているからなのかな?
眠りでコールドスリープ?!
もしくは眠れる森の美女的にキスが必要だとかw