1250 星暦558年 黄の月 25日 頼まれごと(13)
そっと物置(?)小屋から離れ、屋敷の端の方に足を進める。
あまり隠れられるような大きな植栽がないが、屋敷の中に人が居るもののカーテンを閉めているし誰も窓際に立っていないので、音さえ立てなければ接近を気付かれないだろう。
そっと建物の端に辿り着き、浮遊を掛けて2階に上がる。
どうやら客室に無理やりベッドを運び込んだのか、精霊が言っていた端の部屋には殆ど歩く空間もないほど寝台が詰め込まれている。4人ほど部屋に横たわっているようだが、誰も起きていない。
夕食は抜きなのかね?
それとも、もっと早くに睡眠薬入りを出されて寝ているのか。
マジであまり睡眠薬漬けにするのって健康に悪いと思うが、呪いや毒のようなヤバい物が特産物な東大陸だったら長時間に渡って誰かを拘束するための手段がこんなしょぼい港町でも完備されているんかね?
音を立てずに窓を開け、静かに部屋の中に入る。
お。
見覚えのある顔を発見。
考えてみたらフェンダイが魔術学院を卒業してから会っていないから、もう6、7年見ていない。でもあまり変わっていないな。
少年から青年になったんだから、もっとがっしりしていてもいい筈なんだが、あまり体は動かしていないようだ。魔術師だからって油断せず、体も鍛えておくべきだぞ〜?
まあ、蒼流が居るシャルロはまだしも、アレクもそれ程鍛えてないから魔術師は誰もがこんなもんなのかもだが。
『薬か毒か知らんけど、眠っている原因をフェンダイからだけ抜いてくれるか?』
清早に頼む。
一気に全員起こすと色々と面倒そうだから、まずはフェンダイだけ起こして何が起きているのか聞いて、これからの対処を相談しておこう。
下手に年だけとったおっさんよりも、寮長もやっていたフェンダイの方がちゃんと考えて行動していそうだし、何よりも俺とちゃんと話し合ってくれるだろう。フェンダイなら自分ではどうしようもないと思ったら誰それを起こして相談しようと言うだろうし。
『ほ~い。
これ、薬に追加して呪いもちょっと掛けて効果を上げてるね~。
解呪しないと薬を抜いても怠いと思うけど、道具を持ってきてる?』
清早が聞いてきた。
おお?
そっか、この皆の体に纏わりついているぼんやりとした靄っぽいのは呪詛か。
薄いから薬か絶食の効果なのかと思っていた。
『船にはあると思う』
呪詛が人気な東大陸にくるのだ。一応の為という事で船の部屋へ入る廊下の入り口に設置してある自動で解呪する装置の他に、手で持ち運べるタイプの解呪装置もいくつか持ってきていた筈。
「うぅ?……」
ちょっと呻きながらフェンダイが目を覚ました。
「お久しぶり。なんかちょっとヤバいことになっているっぽいから、起きているのがばれないように、小声で頼む」
小さな声でフェンダイに話しかける。
ぼ~っと暫く俺の顔を見ていたフェンダイだが、やがて目を丸くして体を起こした。
「ウィル?!
あれ??
なんでここに……というか、ここはどこだ??」
周囲を見回しながらフェンダイが言った。
「フェンダイ達は東大陸のゼリッタに転移門を設置する予定で航海していて、ジルダスで補給した後に多分嵐に巻き込まれたか何かでちょっと予定が遅れたからどこぞの小さな港町に入港したら……多分薬を盛られたのかな?
俺はフェンダイ達からの連絡が予定日を過ぎても入らないって言うんで魔術院と商業ギルドと国からの依頼で探しに来たんだ」
分かっている範囲の情報を伝える。
「あ~。
そういえば、入港して補給をしようとしたらちょっと前に入港していた船の人間と街の奴らが何やら揉めていて……待たせて悪いとか言われてここら辺の特産物とかの説明をするから町長の屋敷で昼食をどうぞって誘われたな。
食べた記憶がイマイチはっきりしないから、昼食に変な薬でも盛られたのか?」
フェンダイが言った。
なるほど。
どうやら、この町を乗っ取ろうと企んでいるギルバースの船か、もしくはそいつの街から来た船のすぐ後に入港したせいでフェンダイ達はとばっちりを食らったのかな?
4隻停泊している事を鑑みるに、そのあとから来た船も入港したままの船のことを他の街でばらされたら困るってことで足止めしているんだろうな。
というか、何もフェンダイ達に言わず、何を知っているかも確認もせずに薬を持ってひたすら眠らせているのか?
やることが大雑把すぎるぞ!
情報共有なんぞしない方が無難かもですが、アファル王国組にとっては良い迷惑ですね〜