1249 星暦558年 黄の月 25日 頼まれごと(12)
取り敢えず、まずはアファル王国の魔術師を探そう。
事態を引き起こしたトップと『お話合い』をするのも一つの手だし最終的には必要だろうが、どうも上が無能ゆえに起きた事態みたいだから、下手にそいつを関与させると話が更に複雑化しそうだ。
『清早。どこかに複数の魔術師が寝てるかじっと座っている所があるか、分からないかな?』
こんな小さな港町だったら魔術師なんぞ居ないか、居るとしても一人なんじゃないかな。
もしくは一人と弟子程度か。
『任せろ!』
捕らわれの身でなければ今の時間帯なら夕食の準備をしているとか、夕食後の片づけをしているとかで動いている可能性が高そうだし、動いていないのがアファル王国の捕らわれの魔術師なんじゃないかな?
他の船にも魔術師が乗っていた可能性はあるが、港に停泊していた程度の船のサイズだったら乗っている魔術師はせいぜい一人だろう。
そう思って酒場の屋根の上に登ってから清早に魔術師の集団を探せないか頼んだら、直ぐに答えがあった。
『こっちよ~。
町の長の屋敷に閉じ込められているわ~』
風の精霊がふわっと横に現れて教えてくれた。
お、清早と仲が良くって暇な風精霊が傍にいたらしい。
良かった。
『ありがとよ』
お礼に魔力を風精霊と清早に渡し、静かに風精霊の後を追って屋根の上を進む。
殆ど人は出歩いていないが、道を歩くよりも屋根の上を移動する方が人目に付きにくいんだよね。
軽く浮遊の術を掛けてあるから足音もしないし、うっかり古い屋根の瓦を踏み割る危険もない。
暫し進んで辿り着いたのは、港の正面からちょっと奥に入ったところにある大きめな屋敷だった。
まあ、屋敷と言っても俺たちの家より多少大きい程度だから、町の代表(?)が住む場所にしちゃあささやかなもんだな。
『こっちこっち~』と風精霊に誘われるが、ふと敷地の端にある小屋に目が行った。
薪とかの物置っぽい小屋だが、中で魔具が起動しているのが心眼で視える。
『ちょっと待ってくれ』
精霊達に声を掛け、小屋の方を覗きに行く。
扉についていた錠前を解錠して静かに中に入ってみたら、ひんやりと冷えていた。
内陸の他の街へ売る魚を凍らせているのか?
町長の物置に置く必要はなさげだが、魔具が高級だからここに置いてある可能性も無きにしも非ずだが……心眼で小屋の中を見回したら、魚ではなく死体が冷却用魔具で凍らされていた。
あ~。
腐ったら相手側の心象が更に悪くなるから、どうするか決めるまで凍らせて安置ってやつか。だったら物置じゃなくて屋敷の地下か使っていない客室にでも置けば良いのに。
まあ、死体の安置場所に関しては地域によって色々と慣習が違うらしいから、あまり口出しするべきじゃあないだろう。
と言うか、今回の事件そのものに対する口出しは最小限にしておきたいところだ。
さらっと死体を調べてみたら、後頭部の骨が一部陥没していた。
角があるっぽい傷だから、何か角があるものでぶん殴ったっていうんじゃない限り、うっかり転んでどこかの角に頭をぶつけて死んだんかな?
まあ、町の人間の慌て具合から察するに、うっかり転んでというよりもうっかり突き飛ばしてって可能性が高そうだが。
でも、これだったら別に大騒ぎせずに本人が酒でも飲んでいて足を絡ませて転んで階段から落ちたとでも言えば問題なかっただろうに。
ここまで大事にしちまったとなったら普通に転んだだけじゃないだろうと疑われるのは確実だが。
アホだね~。
周囲もその馬鹿な娘のパニックに付き合わずに、『素知らぬふりをして不幸な事故ってことにすればいい』と助言すればよかったのに。
まあ、バカ娘が本当に馬鹿で、しかもプライドが高いタイプで人の話を聞かなかったのかも知れないが。
なんだったら男がどっかの女と遊びに行って帰ってこないとでも言うのもありだったんじゃ無いかなぁ。
浮気者の男がこんな辺鄙な街なんぞ退屈過ぎる!と言ってカジノとか美人が沢山いる娼館のある街へ出て行ってしまったと主張するのもありだろうに。
折角この町から船が出ている所なんだし。
まあ、俺の知ったことじゃないし、何か深い訳があったのかも知れんが。
取り敢えず、今回の騒動の大元である男の死体からは特に使える情報を得られなかったから、さっさとフェンダイ達を探そう。
『お待たせ。
魔術師たちはどこにいるんだって?』
小屋の錠前を元の様に戻して、風精霊に尋ねる。
『あっちの2階の端の部屋ね~。
一人私たちと相性の良い人が居るんだけど、ここのところ寝てばかりなのよ〜』
風精霊が教えてくれた。
へぇぇ?
どうやら風精霊に好かれる体質(?)な魔術師が3人の中に一人居るらしい。
好かれてるみたいだから、契約したらどうだと後で言ってみようかな?
風の精霊でも毒や病気の除去を仲良しな水の精霊に頼めるんだから、こういう場合に精霊と契約していると便利だと思うぞ~。
最初から『毒を盛られたら解毒してね』と頼んでいればいいけど、何も頼んでない場合、精霊と契約してても身の危険がなかったら睡眠薬ぐらいは放置される可能性もありw