1246 星暦558年 黄の月 25日 頼まれごと(9)
またもや予約設定がずれ込んでた。失礼。
「あんたらが病気じゃないなら、なんで逃げないんだ?
いや、その前に魔術師や船長や航海士はどこにいる?」
更に追加で水を足しながらもう一度質問を繰り返す。
こいつらが大人しく閉じ込められているのも不思議だが、それよりも俺達にとって重要なのは魔術師がどこに行ったかだ。
「船の士官や魔術師と商業ギルドからの人間は岸に上がってから帰ってこないんだ。彼らが全員病気だったからあちらで看護する、俺たちは船で隔離だって役人に言われて、船長に会ってくるって港に乗り込んで行った甲板長もあっちで倒れたらしい。
代わりに港の役人という男が顔を出して、全員が岸に着いて補給の話をしようとしたところで倒れたから、船が疫病を運んでいる危険があるという事で検疫するから出てくるなと繰り返し命じて、補給用の水だけ持ってきたんだ。
お陰でもう5日間も最低限の水と固いパンと最後の保存食をふやかした汁物だけだ」
男が溜息を吐きながら言った。
「他の船もなんか動いていないが、誰も岸に行こうとしたり、他の船の連中と情報交換しようとしなかったのか?」
船乗りの連中がこうも大人しくちっぽけな港町の見知らぬ役人の言うことに従っているのが怪しい気がするんだが。
「……そう言えば、そうだな。
あいつらが持ってくる水に何か変な毒でも混ぜてあるのか??
元々、嵐に遭って予定より遅れて食料が心もとなくなったからここで補給しようとしたんで遠くへは行けないが、それでもここで大人しく停泊している理由にはならないな。
せめて船長たちの様子を誰かが確認しに行くべきだ、よな……?」
不思議そうに顎をこすりながら男が言った。
何か無気力になるような薬か毒でも水に混ぜられているのか?
ある意味、士官が全員いなくなっているんだったらそれこそ船長室に隠されているだろう資金を盗んでトンずらしようとする人間が一人ぐらいは出てきてもおかしくないが、そういうことを誰も考えていない様子だし。
まあ、船長室を確認していないから、既に盗まれた後の可能性もあるが。
「船の荷はそのままなのか?」
転移門は使える人間に売れる伝手があれば、このサイズの船長室に隠せる金貨よりもずっと金になる。
伝手がないのだったら部品ごとにばらして売ってもそれなりの金にはなるし。
というか、そういうことに詳しくない馬鹿であろうと、売れそうだと思って人の目がなければ勝手に持ち出しても不思議はない。
「ああ。
船倉から特に何も持ち出していないようだから、そのままだと思うぞ?」
男が言った。
「ふむ。
ちょっと船の中を確認した上で、夜に街に忍び込んで船長や魔術師がどうなったか確認してみるよ。
ちなみに俺の名前はウィルというんだが、お前の名前と船長と航海士の名前を教えてくれ」
魔術師の名前は聞いてきたが、船長に関しては聞いた覚えはない。
多分アレクはアンディから聞いているとは思うが。
「俺はベルグだ。
船長はデブラスで航海士がナスターンだ。筋肉ハゲと赤毛でのっぼなやせっぽっちだから見たらそれなりに分かると思う」
ベルグが答える。
「他の奴らも、病気じゃあないんだな?
流石にそれ程食料は予備がないが、水と多少の干し肉程度なら持ってこれる。だが薬は殆ど無いんだ」
船員に体力を取り戻して欲しいが元気になったとたんに暴れだして港の奴らにばれても困るし、手伝いに来た誰かが病気をうつされるような事態も避けたい。
「ああ。
なんか妙に無気力で何もやる気が起きなかったが、熱があるとか咳が出るとかではないな。
他の奴らもただ寝ているだけで揺すれば起きる」
ちょっと不思議そうに首を傾げながらベルグが応じる。
寝ているだけで揺すれば起きるってそれはそれで何かヤバそうな気もしないでもないが……。
『こいつら、変な病気は持ってないよな? 何か薬でも盛られているのか?』
清早にこっそり尋ねる。
『脱水気味なのと栄養のバランスが取れてないのが主な問題かな~。
ちょっと睡眠薬っぽいのが体に残っているから、水に睡眠薬が混ぜられていたのかもね』
清早が教えてくれた。
そういえば、長距離な航海では野菜か何かを意識して摂らないといけないんだっけ? 以前の新規航路探しの時に誰かから聞いた気がする。
普通だったら陸地に着いたら野菜を食べるだろうに、港の人間も食料を殆ど出してないから栄養失調になっているのかな?
取り敢えず。
何か食材がないか、パディン夫人に聞いてみるか。
これはフィクションです。
更に異世界なので、地球での病気と必ずしも条件や症状は一致しませんw