1244 星暦558年 黄の月 25日 頼まれごと(7)
「病気も清早が守ってくれるから、余程のことがない限り俺って疫病に掛かったりしにくいんだよな?」
以前清早に聞いたことを確認しなおす。
『おう。
変に体を冷やしたりして自分から体調を崩すようなことをしない限り、外から入ってくる変な病気は大体防ぐぞ!』
清早が自信満々に胸を張りながら答えてくれた。
「じゃあ、俺がこっそり忍び込んでくるよ。
まずは今のうちに船の中に誰か居るのか確認して可能だったら状況を聞いてきて、あとは暗くなったら町の方を調べてくる」
元々忍び込むのだったら俺の方が得意だ。
これで疫病がうつる可能性が高いって言うんだったらそれこそシャルロにアルフォンスを呼んで貰って小さく非実体化して偵察に行ってもらってくるのが一番無難かもだが、アルフォンスもそれなりに忙しい王様だからな。
俺でどうにかなるのに、妖精王をちょっとした探索に呼び出すのは微妙だろう。
あの妖精王もちょくちょくシャルロの所に遊びに来ているようではあるが。
『それが良かろう』
蒼流が姿を現して俺の提案におもむろに頷いた。
これはどうやら俺が戻ってくる前に、シャルロがアレクに自分が偵察に行く方が安全だと主張していたな?
どんな危険でも蒼流が防げる可能性が極めて高いとは言え、それで村を全部海に流し飛ばしてしまったらそれはそれで後で問題かもだし、俺が行くのが一番無難だろう。
疫病なのがはっきりしたら、港の人間に疫病告知の旗をさっさと出せと促すのには如何にも貴族の令息ですっていう感じなシャルロが前に出る方がいいかも知れないが。
「そうだな、まずはガヴァール号にアファル王国の人間が閉じ込められているか確認して、誰かと話が出来そうだったら状況を聞いてきてくれ」
シャルロの案には反対していたらしきアレクもあっさり俺の提案には頷いた。
「じゃあちょっと海の中を浮遊で動くから、清早よろしく!」
『任せとけ!』
清早の返事を聞いて、甲板から海へさっと飛び込む。
もっと船に近づくまで海上を飛んで行っても良いが、どうせ浮遊を使うなら海面下を進んだ方が目撃される可能性が減って良い。
ついでに海底を確認しながら進んだら、何か面白げな沈没船があったら分かるし。
まあ、これだけ港に近い場所で船が沈んだら、中身は全部回収されてすっからかんだろうが。
『港に向かうから、方向を間違えてたら教えてくれ』
清早に頼む。
考えていたら、ガヴァール号がどれだかちゃんと確認してなかったな。
まあ、一隻ずつ船の名前を確認しながら中に誰か閉じ込められているかを確認しつつ近づけば、もしかしたら状況を説明してくれるような会話を誰かがしているかも知れないしな。
『もうちょっと右だね~』
清早の言葉に従ってちょくちょく方向を変えていたら、やがて桟橋を支えているらしき柱が前に現れてきて、船底らしき塊も頭上に見えてきた。
桟橋が伸びてきている方向から港の位置を推測し、そちらから船が影になって見えないと思われる場所へそっと浮上して周囲を確認する。
斜め後ろの方に船名が見える。
『プリティア号』
俺たちには関係のない船のようだ。
心眼で船の中を確認すると、船倉っぽい場所に動かない人間が複数横たわっている。
単に酒に酔っぱらって船で寝ているっていうんじゃない限り、疫病の可能性が高まったかな?
検疫として病人を隔離目的で船に入れているなら、勝手に船員が上陸できないようにもう少し岸から離す筈。
桟橋に係留した船に人が寝込んでいるとしたら、疫病が港から伝わり、船長がヤバいと逃げようとする前に船員が倒れたか……逃がしてたまるかと船長が港側で拘束されているかだな。
入港した船をすべて拘束したところで港町側が終わっているのは変わらないと思うが……疫病だとばれると町全体に火を放って焼き尽くされるとでも危惧したんかね?
特にヤバい疫病だとそれが広まった村を隔離して、外に人が出ないようにして全部焼き尽くすなんていう対処法も地域によってはあると聞くが……それを恐れているんかな?
ちゃんとした神殿が近くにあってそこから人を寄越してもらえば、焼き尽くさなくても何とか対処できると思うんだけどね。
少なくとも、人の出入りを止めて、病人がすべて治るか死ぬかした後に神官を入れて浄化させれば疫病が再発することはない筈。
考えてみたら、清早とか蒼流が丸洗いした場合も疫病の元を洗い流せるのかな?
以前ちゃんと処理していないヤバい薪のせいで魔物になりかねない穢れが王都に広まった時に蒼流が全部洗い流して洗浄していたが、あの穢れと病気の元って似たり寄ったりな気がする。どうなんだろ?
穢れを除染出来るなら、消毒も出来ても良さげな気がしますけどね〜