1240 星暦558年 黄の月 22日 頼まれごと(3)
「ちなみに、この依頼って何か秘密を守らなきゃいけない的なことがあるのか?
特にないなら空滑機を何機か積み込んで、それを飛ばす人間も乗せていけば海岸沿いを下りながらそこそこ広めな範囲を沖に向けて確認できると思うが」
というか、海岸沿いで座礁している可能性ってあまりないんじゃないか?
陸だったら誰かが周囲に住んでいるとか、他の交易船が通りがかるとかしてそいつらに助けを求めるなり少なくとも伝言を頼むぐらいのことは出来るだろう。
完全に行方不明なんだったら、嵐か何かで流されて陸の方向が分からなくなったとか、かなり遠くに流された後に動けなくなってどこかの島に漂着しているとかの可能性の方が高そうな気がする。
でも素人な俺たちならまだしも、ちゃんとした船乗りだったら太陽が出ていれば陸の方向が分からないなんてことは無いだろう。よほど長距離を流されたんじゃない限り、生きているならばどこかの島に漂着して修理に励んでいる可能性が高そうだ。
沈没しているんだったら……探すのは難しいだろうなぁ。
「ふむ。
海軍で斥候用に空滑機を導入している船もあるという話だから、そういうのから2、3機人間ごとかりる形にしたらいいかな?」
アンディが顎を撫でながら言った。
「それで、結局この依頼ってどこが主体で出しているんだ?」
アレクがアンディに再度尋ねる。
「報酬の支払いは商業ギルドが5,魔術院が3,国が2という感じで話がついているんだが……軍から空滑機を出してもらうならそちらで国の支払い分は相殺かも?」
アンディが答える。
「僕たちに頼まれているのは屋敷船で早急に東大陸のケッパッサまでたどり着いて、あとは南下しながら周囲を探すことだよね?
成功報酬に関してはその軍の空滑機があったら確率が上がるかもだけど、あっちまで出かける手間と僕たちの時間と労力はちゃんと払ってもらうよ?
僕たちは魔術院の職員じゃないし、今年の会費は既に払ってあるんだから」
シャルロが指摘する。
というか。
「これって軍の空滑機の人間が肝心の船を見つけた場合、成功報酬はどんな感じに分けるんだ?
もしくは、空滑機ではなく俺やシャルロが飛んでいる時に見つけたとか、蒼流が探知してそっちに行って空滑機で確認を取った場合とか。
言い出したのは俺だが、考えてみるとなんかこう、色々と面倒そうな気がしてきたんだが」
欲張るつもりはないし、人助けだから協力は吝かではないんだが、ある意味他の集団の人間が一緒にいて作業すると色々と報酬の分け方とか俺たちの技術に関する機密保持とか、ややこしくなりそうだな。
「確かにね。
蒼流や清早だとどのくらいの距離まで浮かんでいる船が分かるんだ?」
アンディが尋ねる。
「知りたければ世界中の海に浮かんでいる船が分かるし、それを沈めることだって出来るのが高位精霊だぞ?
ある意味どこまでの距離を確認しに行くかが限界になる」
アレクが指摘する。
そう言えばそうだった。海の中に沈んだ船だと沈んだばかりか数百年前かの違いが微妙なところだけど、海上に浮かんでいる船だったら存在を見つけるだけなら蒼流なり清早に頼んで、『何かいる』と言われたところを空滑機で確認に行けばいいだけか。
それとも、10日ぐらい前に沈んだばかりの新鮮なのだったら違いが分かるのかな? それこそ中に白骨化していない死体が入っている船って条件を指定すれば良いとか?
フェンダイが既に死んでいると考えるのはちょっと残念だが。
孤児で下町出身の俺にも普通に接してくれたいいやつだった。
「考えてみたら、適当にケッパッサから南下しながら500メタ内の船の場所を聞いて順番に空滑機で見て回る方が話が簡単でいいか。
変に軍の人間を乗せたりするとイライラしそうだし、そっちの話は無しにしようぜ」
ぐだぐだ報酬の分け方に関する話し合いで時間を食われたら、ヤバいかもだし。
「言い出したのはお前だろうに。
まあ、軍にしたって空滑機を載せた船が王都に入港しているかどうかは不明だし、直ぐに人を出せるかも分からないから、シャルロたちで何とかなるなら3人に頼んじゃうほうが早いかな?」
アンディが肩を竦めながら言った。
「で?
お前をここに送ったお偉方たちは私たちにいくら出すと言っているんだ?」
アレクが改めて尋ねる。
取り敢えず、アレクがそっちの交渉をしている間に俺はパディン夫人に船に乗るのについてきてもらえるか、聞いてこよう。
誰か料理をする人に同行してもらえないと極めて侘しい食生活になりかねん。
何が原因で連絡がつかなくなったのかは誰も知らない……
これがシャルロ達じゃなかったら救援に行った船まで行方不明になりそう?




