1235 星暦558年 黄の月 16日 脱走防止(15)
「なんかこれ、面白いかも!」
作ってみた浮遊系の試作品を庭で試していたシャルロが、工房に首を突っ込んで声を掛けてきた。
「面白い?
効率がいいとか全然だめっていうんじゃなくって?」
今まで試した試作品の3つは普通、良い、ダメって感じな感想だったが。
普通のは数秒2ハド程度宙に浮く、良いは同じぐらい浮いたけど魔力消費量が少なかった、悪いは1ハド弱しか上がらなかった上に直ぐに落ちたって感じでどれも『面白い』という感想が出なかった。
今度のは何が違うんだ?
作りかけていた5つ目の試作品を作業机に置き、庭に出る。
「見てて!」
楽し気にシャルロが言い、地面に置いた魔具を起動させた後に膝を曲げてジャンプした。
「おおぉ?!」
シャルロがびょいんっと飛び上がったのを見て、アレクが驚いたような声を上げた。
びょいんびょいんと飛び上がっているシャルロを見るに、どうもこれは浮遊の術が変則的な感じに機能しているのか??
「体が軽くなっている感じなのか?
それともジャンプ力が上がるような身体強化系な効果が出てるのか??」
動きは『びょいん』って感じで、筋力でジャンプした感じじゃないんだけど、体が軽くなるとあんな風に飛ぶのか??
「なんかこう、この魔具の範囲内だけ体が軽くなっている感じ?
靴を投げても高く跳ね上がるんだよね」
みょいんみょいん飛んでいるのを止めたシャルロが靴を脱いで地面に叩きつけて見せた。
確かにそれ程力を込めたようではないのに、普段じゃ見ないほど靴が跳ね上がっている。
「軽量化の術がその範囲内で起動している感じなのかな?」
軽量化の術を対象物に掛けるのは今までも時折活用してきたが、それの地面での範囲指定型というのは初めて見るかも知れない。
あまり実用性はない気がするが、子供が遊ぶのには良さげかも?
少なくとも、見ている分には面白そうだ。
「ちょっと俺も入らせてくれ」
試作品の範囲指定内に入って、ジャンプしてみる。
「おお~!」
一気に飛べた。
これだったら一度のジャンプで2階のベランダへ手が届きそうだ。
というか、上から飛び降りてきたらどうなるんだ?
地面に降りたところで浮遊の術を掛けて宙に浮かび上がり、試作品の範囲内に向けて三階程度の高さから飛び降りてみる。
「おっと」
落ちた衝撃が少なかったが、勢いは消えなかったのでバランスを崩して地面で転がる羽目になってしまった。
とは言え、火事とかで人が上の方から飛び降りなきゃいけない時なんかにこれを地面に設置したら安全性が上がるかも?
どこまでが範囲内か分かりにくそうだし、上から落ちてくる際にどこに落下するかの判断は慣れていないと難しいかもだが。
「何かこう、もう少し広めにして子供たちがその中で出来る遊びを考えたら更に喜ばれそうだな。
勢いよく範囲外に飛び出して怪我をしないように安全装置も併設した方がよさそうだが」
アレクが飛び跳ねている俺とシャルロを見ながら言った。
「これだったら何人もで一気に遊べるからそうそう飽きたりしなさそうだし、使わせてもらえないと仲間外れ感が強くて罰として効果的じゃないかな」
シャルロが付け足す。
「確かにな。
場所によるが二階の窓から飛び降りてジャンプの華麗さを競うとか、頭に巻いたリボンでも奪い合う競争とか、何か球をどこかに入れる競争とか、色々出来そうかも?」
シャルロがジャンプしながら体をひねったり回したりしているのを見ながら提案する。
「ジャンプの華麗さを競わせると、練習だといってその魔具を起動させてない時にも飛び降りる馬鹿が出てきそうだから辞めた方がいいと思うが、リボンを奪い合うとかどこかに球を入れる競争とかはありかもだな。
サイズ的にそれなりに大きくしないとお互いにぶつかって怪我をしそうだが」
アレクが問題点を指摘する。
あ~。
預かり所でやっているから!という事で家の2階の窓から子供が飛び降りて大怪我したなんて事になったら確かに大問題だな。
魔具があるからこそ出来るのであって、なければ危険だって考えれば分かる筈だが……子供だからなぁ。
どの程度理性的か微妙に不明だ。そう考えると飛び降りジャンプ比べはやめておいた方がよさそうだな。
リボンの奪い合いもそれなりに肘鉄とかでの攻撃が通りそうだから、危険かな?
どこか高いところに球を入れるのを競う程度の方が無難かも。
まあ、そこら辺は子供達が勝手に遊び方を思いつくだろう。危険そうな遊びは預かり所の職員に止めて貰うしかない。
月面でやるバスケみたいな感じなゲームとか、面白そうかも?