1232 星暦558年 黄の月 14日 脱走防止(12)
預かっている子供に犯罪者や容疑者に使うような足鎖を使うのは不味いかも?と言う事で何とかならないか、俺たちは話し合った。
「こう、警報音が鳴って数秒後に拘束結界が起動する感じにしたら、良い感じに足だけが捕まらないかな?」
シャルロが提案する。
「絶対に歩いて進めない生垣の下ならまだしも、同じ仕組みが扉とか壁際とかにも使われるんだから、普通に飛び出されて拘束結界が間に合わない可能性があるぞ?」
生垣にしても、日当たりとか水捌けとかのせいで場所によって厚みに違いがある様だから防犯結界に引っ掛かって警報が鳴ってから走り出せる様な『外』に出るまでの距離が同じじゃないんだよな。
生垣を薄いところを選べば、一気に飛び出せる可能性はありそうだ。
「生垣用とその他で別にするとか?」
シャルロが首を傾げながら言う。
「それはちょっと経済性が損なわれるからなぁ。
それだったら足鎖の代わりにこう、皮ひもか何かで子供の足を職員と一時的に繋いで逃げられないようにする方がまだマシじゃないか?」
アレクが指摘した。
囚人とか捕虜を数珠繋ぎにする感じに、一人が走っても他の奴らが足手まといになる足鎖の使い方もあるな。罰を受けるまで逃げないように『職員と』一時的に繋ぐっていうのはそこまで印象が悪くなくていいかも?
「というか、考えてみたら脱走しようとした子供を職員が一人で捕獲しようと思ったら、結界解除をした瞬間に逃げないように鎖はどちらにせよ必須じゃないか?
流石に結界解除を遠隔で出来るようにするのは高くつきすぎるだろう」
幾らその場で超絶に不味い予防薬を飲まして罰を与えたとしても、その後に逃げられたら意味がない。
結局、拘束結界を解除するためには子供を捕まえておくか、結界解除を遠隔で出来るようにする必要がある。
それこそ軍とか王宮で使っている拘束結界は遠隔で解除できる仕組みだから不可能ではない筈だが、俺たちはそんな仕組み用の魔術回路を知らないからそんな魔具を作ろうと思ったらまだ期限切れになっていない現役の特許を利用する羽目になるから特許使用料も高くつく。
しかも実用性が高い警備保安用の特許って使う側の予算も潤沢だから高いんだよなぁ。
「実際に子供が脱走したら2、3人で追いかけたり探したりするらしいじゃん?それを一人で処理できるっていうのがこの魔具の長所なんだからね。
そう考えると値段を上げずに一人で処理できるよう、子供が簡単に外せないような鎖で職員と一時的に繋げる道具を提供するのが一番かな?」
シャルロが言った。
「あまり長すぎたらあちこちに絡まりそうだからなぁ。
それこそ解除したら消える魔力の鎖でも作れればいいのに」
魔力で人を拘束するのは可能だ。
あれは相手を他者が引きずって逃げるのも防ぐので、鎖っぽい繋がりも具現化するとは思うが、あの術の魔具なんて……ないよな?
「なんかどんどん変な物を作る形に話が変わっていっている気がしないでもないけど……一応あの拘束の術の魔術回路がないか、探してみる?」
シャルロが微妙な顔をしながら言った。
「……変に悪用されても困る。どの程度の実用性と応用性があるかを確認してから作るかを決めるにしても、一応何か使い勝手が良くて悪用しにくいのがないか、調べてみてもいいか」
アレクがちょっと考えてから応じる。
魔力で拘束するのって人目に映りにくいから、下手をしたら無理やり誰かを誘拐するのにも使われたりしかねないからなぁ。
まあ、魔力で拘束して繋ぐのと口をふさぐのは別だから、悲鳴を上げて周囲に助けを求めれば縄で縛られていなくても拘束された人間が誘拐されそうだと分かって何とかなるとは思いたいが。
取り敢えず、何か役に立ちそうな特許があるか、魔術院で調べるか。
今までそんなのを見かけた記憶はないが、元々魔力で何かするなんて言う魔術回路には大して興味がなかったから見かけても無視していた可能性が高いからな。
需要はあるのだ。そう考えると、誰かが何かを過去に開発した可能性はあるかも?
無かったらおしゃれな鎖でも適当に購入してサリアナーリにプレゼントしよう。
じゃらじゃらと鎖で繋がれた子供達。
違法な人身売買組織と誤解を受けそうw