1231 星暦558年 黄の月 13日 脱走防止(11)
結局、ゼルギリ草を使った予防薬とやらの脅しが効果的過ぎたのか、昨日はあの後抜け出そうとする子供たちが居なかったので、今日はこっそり子供たちに見られないように裏口から預かり所に来た。
「アレクさんたちを見なければ、絶対に昨日言ったことなんてみんな忘れてますから」
サリアナーリが自信満々に言った。
ケレナのところの仔犬たちだって、あのローラーで邪魔して箱をよじ登れないようにした箱の縁を飛び越えたら警報が鳴ると覚えて、最近は箱の中で追いかけっこに熱中しすぎて我を忘れて飛び回らない限り箱のふちを飛び越えて外に出ようとしなくなったという話なのに、人間のガキは仔犬よりも忘れっぽいらしい。
まあ、人間のガキだって嫌な思いを実際にすれば覚えるだろうという事で、今日それを実体験させるために来ているのだが。
プププ~!
預かり所の女性たちは朝から忙しいので、俺たちは中の部屋で適当にお茶を飲みながら次は何を開発するかを適当に話していたら、警報音が鳴り響いた。
早速かぁ。
マジで子供の頭って短期記憶しか無いっぽいな。
まあ、抜け道を探し出す悪知恵は手におえないぐらい凄いらしいから、興味があるものしか覚える気がないってやつなんだろうな。
考えてみたら、俺だって興味がない歴史の授業の内容なんかは中々頭に入らなかったし、試験を終えたらスポンと抜けてしまったからガキどものことを馬鹿に出来ないか。
取り敢えず、順番で行くことになっているので最初の当番としてアレクがお茶の入ったマグを机の上に置いて外に出ていく。
警報音が止まった。
拘束結界の解除もちゃんと出来ているかな?
その場で予防薬を飲ませる筈だが、考えてみたら拘束結界から抜け出したらさっさと逃げそう?
いや、足だけしか拘束する様に低い部分だけしか拘束していない筈だあから、上半身は動くんだ。結界を解除する前に飲ませればいいだろう。
そんなことを考えていたが中々アレクが帰ってこない。
「拘束結界の解除に失敗したのかな?
でもそれだったら呼びに来そうなもんだよね?」
シャルロが耳を澄ませながら首を傾げた。
「うぎゃああ~~~~!!!」
何やら凄い悲鳴が響き渡った。
「うわ、襲撃者でも入ってきたのか?!」
慌てて俺とシャルロも声がした方へ飛び出していく。
アレクだって魔術師だからそこら辺の破落戸だったら撃退できるが、子供を守りながらとなるとちょっと不利だろう。
戦ったり守ったりするのは俺やシャルロの方が向いている。
と思って慌てて飛び出したのだが、建物を出たあたりぐらいでアレクに出会った。
「あれ?
今の悲鳴は?」
「ゼルギリ草を使った予防薬を二口分飲まされた悪ガキの断末魔の悲鳴。
確かにあれは凄い味だからねぇ」
アレクが笑いながら教えてくれた。
おや。
アレクはその予防薬とやらを飲んだらしい。
まあ、考えてみたら当然だよな。
「あれって飲みやすいようにって蜂蜜に混ぜたりお茶に淹れたり色々やってみたけど、どうやっても不味いんだよねぇ」
シャルロも嫌そうな顔をしながら頷いた。
へぇぇ。
子供に飲ませる予防薬があんな悲鳴を上げるほど不味いのか。
そりゃあ大人しくて聞き分けのいい子供以外が逃げちまう訳だな。
実際に病気になってぐったりしているところだったら苦い薬も無理やり飲ませられるかもしれないが、元気いっぱいな時に『後で苦い薬を飲まなくて済むように』と言って超絶不味い薬を飲まそうとしても、子供は納得しなさそうだ。
アレクもシャルロも大人しく飲んだようだが。
多分。
「時間がそれなりに掛かったみたいだけど、何か問題があったの?」
シャルロが尋ねる。
「いやぁ、元々足元だけ拘束する予定で低い位置に拘束結界を設置していただろ?
生垣の下を這い蹲って進んでいたから実質体全部が拘束されていたから、拘束結界を解除せずに予防薬を飲ませるのが難しい感じだったんだ。
だから結局サリアナーリが結界を解除する間は脱走しようとした子の腕を私がしっかり握って抑え込んでいたんだが、逃げないように抑え込むのが中々難しくてね」
アレクが言った。
つうか、結界解除前に抑え込むってなると生垣の下を潜り抜けようとしている子供を捕まえた状態で解除しなきゃいけないのか。
大人にはちょっと無理じゃ無いのか?
生垣の下の空間ってかなり狭いぞ?
「そうなると、一々脱走するガキを解放するのに2人がかりで対処しなきゃいけなくなるなぁ。
走れないように足をつなぐ鎖でも提供するか?」
下町の警備兵が適当に犯罪者(もしくはその容疑者)を捕まえて拘置所へ連れていく際に、一応歩けるだけの歩幅分の長さしかない鎖で両足を繋ぐことで走りにくくするんだよな。
まあ、コツをつかめば小走りして逃げ出せるようになるが。
あれで脱走犯のガキを拘束したらどうかね?
『ウチの子に犯罪者の様な鎖をつけるなんて!』
クレームの嵐?