1230 星暦558年 黄の月 13日 脱走防止(10)
「脱走防止用の防犯結界へ侵入があったら警報が鳴るのと同時に、その外側に拘束結界も展開する形にしてみました。
これで子供たちが抜け出そうとした場所で拘束されて逃げ出せなくなるので、捕まえるのに走って追いかけなればならない労力は下がります。ただ、さっさと解放しにいかないと魔力消費量がぐっと高くなるので、ただ単に脱走しようとして構ってもらえるという形にならないようにその場で与えられる罰みたいのが何かありませんか?」
2日かけて色々と試した結果、拘束用の結界を態々別に設置して常時起動させておくとか、侵入者を感知して拘束する形にするよりも、脱走防止用の魔具に連結させて防犯用の結界に侵入者が入って警報が鳴る際についでに拘束用結界も起動させる形にするのが一番魔石の消費量が少なく、製造時の手間も節約できるという結論になった。
とは言え、拘束結界は拘束した誰かが抵抗するとそれを押さえつける為にそれなりに魔力を消費するので、出来るだけ早く捕まった人間を解放して結界を解除する必要がある。
そうなると脱走しようとしたガキは単に追いかけっこを楽しみ、預かり所で働いている人達の手を掛けさせるだけになる。なので何度も繰り返さないように罰が必要だろうという結論になった。
俺としてはそれこそ捕まっている間中痛い思いがするとか、頭が痛くなるようなキーンとする高音をすぐそばで鳴らし続けるとか、暫く目が見えなくなるようにするとか、色々と拷問用の道具の簡略版を使ってはどうかと言ったのだが、子供相手に何を言うか!!と却下されてしまった。
取り敢えず、子供の嫌がることは専門家の方がよく知っているだろうという事で、俺たちは預かり所の女性に相談することにしたのだが。
シャルロの質問に女性(サリアナーリとかいう名前だっけ?)がにっこりと笑った。
「あら。
それだったら、丁度いいから体に凄くいいけど酸っぱ苦いから物凄く嫌われている薬を飲ませましょう。
予防薬として飲ませることを推奨されているんだけど、本当に不味いから皆逃げちゃって。聞き分けのいい特に大人しい子しか飲んでくれないのよね。
三回分ぐらいに分量を分けて飲ませればちょうど良さそうね」
うふふとサリアナーリが微笑んだ。どうやら予防薬を飲ませるのにも苦労しているらしい。預かり所ってそんな薬に提供もするんだな。
まあ、ガキが病気になったら親が仕事を休んで看護しなきゃだし、そうじゃなくても預かり所で病気をうつしまくっても困るしで、商会の従業員用預かり所だからこそのサービスなのかな?
「いいですね、それ!!
特にダッチェとかは絶対に予防薬を飲まないくせに外でいつまでも遊びたがるせいでしょっちゅう風邪をひくし、風邪をひいても大人しく寝ていないせいでご両親も看護が大変だって話ですからね」
傍にいた別の女性が手を叩きながら賛成していた。
体力がない子供用なのかね?
魔術学院で出された記憶はないが、孤児院では絶対にそんなもんに金を使っていなかったし、盗賊時代にはそんなのがあるなんて話すら知らなかったから、当然飲んでもいなかったが。
「じゃあ、取り敢えず周囲に設置してきますね。
どうせ待っていれば誰かが脱走を試そうとするから直ぐに解除の仕方も試せるでしょう」
アレクが言った。
一応やり方の説明書は書いて持ってきたし、やって見せながら説明したが、こういうのって自分で実際にやってみないと思いがけず分からない事ってあるんだよな。
魔石の魔力が切れるまで子供が拘束されたままというのは困るだろうし意味もないから、俺たちが帰る前に何度か練習できると良いんだが。
俺たちが改造版脱走防止用魔具を設置している間に、サリアナーリが手を叩いて子供たちの注意をひき、新しい決まりを説明しているのが聞こえた。
「みんなも分かっているように、外は子供だけで出かけたら危ないから勝手に生垣や壁の隙間から抜け出すのはダメですよ~!
折角そこのお兄さんたちがそんな悪い子がいたらすぐわかるように警報がなる魔具を作ってくれたのに一部の子がそれを鬼ごっこの一種だと思っているようだけど、そんなことをしている暇はないの。
なので、今日から脱走しようとして捕まった子は、あの!ゼルギリ草を使った!予防薬を!飲んでもらいます!!」
強調するために言葉を区切りながら発表したサリアナーリの言葉に子供たちの動揺の叫びが聞こえてくる。
ゼルギリ草を使った予防薬ねぇ。
ちらっと覗いたところ、悪ガキたちの何人かがかなり嫌そうな顔をしている。
どうやら脱走防止の効果がありそうかな?
飲む予防薬にどのくらい効果があるかは不明ですが、ファンタジーな世界なのできっと効くんでしょう!