1225 星暦558年 黄の月 5日 脱走防止(5)
ローラーと除外用首輪の確認のために再びケレナの実家(?)に来た。
首輪の方は母犬に着けたが、特に動き回らずにそのまま寝ているので上手く機能しているかまだ確認できていない。
ちょっとごついからもう少し工夫する予定だとシャルロたちは言っていたが、まあ犬は別にデザイン性なんて気にしてないんじゃないか?
児童養護施設で使う人間用は確かにもう少しおしゃれな方が喜ばれるかもだが。
そんでもって仔犬たちの方はと言うと。
箱の隅に団子のように重なり合っているわちゃわちゃしている兄弟犬達を踏んずけて上に登っていたやんちゃ坊主が、ちょうど見ていたら箱の上に設置したローラーに上手いこと乗っかるような形で飛びついた。
「あら」
隣の部屋から覗いていたケレナが声を上げるのとほぼ同時に、ローラーが回転して仔犬が箱の外に放り出され、警報器が鳴り始めた。
びっくりした悪戯坊主が慌てて逃げようとするのをケレナが素早く駆け寄って掴み上げ、箱の中に戻す。
警報音にびっくりしてわたわたしていた他の仔犬たちも音が止まったら落ち着いてまたお互いと遊び始めたり、昼寝に戻ったりとノンビリ元の状態に戻った。
「ローラーが箱のすぐ上に出てくる形だとダメだな。
少し隙間を開ける感じにするか」
ローラーを支える支柱は高さを調整できるようにしてあるので、箱の上にぴったりくっつく形ではなく、2~3イクチ離れて上にある感じにすると隙間から登れず、箱のふちに手を掛けても上につかっかる感じでちょうどいいかな?
四方に設置したローラーの高さを調整し、再び隣の部屋に戻って観察する。
が。
先ほどの警報音でちょっとびっくりしたのか、どの犬もあまり箱から出ようとしない。
「う~ん、そのうち悪戯を再開すると思うんだけどねぇ。
待っているのもあれだから、ちょっとオモチャで興味を引いてみようか」
そう言いながらケレナが何やら紐の先に古びたヌイグルミを結び付けて空中で振って見せ始めた。
先ほど外に飛び出した仔犬がヌイグルミに気づいたのか、興奮して飛び上がっている。
どうやらあれが仔犬たちの中では一番好奇心が一杯なのか、視野が広いのか、取り敢えず世話は大変そうだが賢いのかも?
どちらにせよ、あまり興奮しすぎても煩いのだが、興味を引いたところでケレナがオモチャを傍の棚の上に置き、紐を垂らして置いた。
やんちゃ坊主はオモチャが動きを止めても狙っているのを変わらないのか、わちゃわちゃ遊んでいる兄弟たち(メスもいるかもだけど)を踏んずけてまた箱のふちに登り始める。
が。
「上手くいったみたい?」
箱のふちに右の前足を掛け、左の前足で一生懸命ローラーをひっかいて回している姿を見てシャルロが微笑まし気に言った。
「箱のふちの上にあの程度空間をあけて上に設置すると登るのがかなり難しくなるみたいね。
あれだったら警報音も要らないかもだけど、そのうちジャンプして飛び越えそうだからあった方が安心かしら。
音が鳴らなかったらあの魔具ってどのくらい今の魔石でもつの?」
ケレナが尋ねた。
「まだ作って数日だから分からないね~。
1日一回程度、一瞬だけ手を範囲内に入れてちゃんと鳴るか試しつつ、何日で鳴らなくなるか教えてくれる?」
シャルロがのんびりと応じる。
まだ試作品だからな。
一応家の方でもそのまま警報器を起動させた状態で工房の窓辺においてあるが、除外用の首輪をした犬がちょくちょく通り抜けると何か消耗度に違いがあるかとかも確認したい。
どうやらローラーを転がすのが楽しくなったのかパシパシと一生懸命ローラーを転がしていたやんちゃ小僧だが、やがて飽きたのか兄弟団子から下りてきて母犬のところに行き、ぱたんとおなかの方に寄りかかるように寝転がった。
お?
おっぱいでも飲むのかな?
と思ったら、母犬がのそっと起き上がって箱から出てきてしまった。
あらま。
「ちゃんと除外機能は動いてるな」
ちょっと『あれ~?』という顔をした仔犬を気にせず、アレクが満足そうに言った。
一応自分たちで手首につけて何度か試したんだけど、大きさとか高さとか、何か想定外な条件のせいで上手くいかないことって魔具を試作していると時々あるんだよね。
そんなことを考えているうちに母犬はのっそりと小屋から出て行った。
「散歩??」
子供を置いて行くもんなのか?
まあ、人間の母ちゃん達だって子供と一緒に一日中家の中に居たら嫌になるとは言っていたが。
ここだったら人間が見張ってくれるから仔犬たちも安全だろうと安心しているんかね?
「トイレじゃないかしら」
ケレナが言った。
あ、そうか。
犬のトイレってそこら辺の外の草原の中なのか。
……奇麗そうな草原だからって直接寝転がったら犬とか牛とか馬の糞尿まみれな可能性もありそうだな。
外に出かけるときは必ず下に敷く防水シートを持ち歩かねば!