1222 星暦558年 黄の月 2日 脱走防止(2)
まずは試作品を作って音だけでどの程度効果があるか調べようという事になった。なので昨日1日かけて試作品を作成。箱型の四隅に置いたらそれをつなぐ線状に防犯結界を展開し、そこに心臓の鼓動がある生き物が入り込んだら警報器が鳴るようにした。
別に箱の外に置かないでも機能はするが、素通りできちゃう所だと通った瞬間に音が鳴るだけなので効果はイマイチだろう。
登り越える箱に縁沿いにでも設置する方が、音で乗り越える行為を止めるのではと期待している。
一応高さを地面から2ハドとしたので、人間が上からかがみこんで何かする分には引っ掛からない可能性が高い。
まあ、ここら辺は調整可能だから実際に試してみて変更する予定だ。
虫は心臓がないからいいものの、ネズミが侵入したらそれも引っ掛かるが、多分母親と一緒にいる可能性が高い仔猫や仔犬のところにネズミが侵入する可能性はあまり高くないあろうと対象生物のサイズ指定はしなかった。
上面も覆う形にしたらカラスとか肉食な鳥が来ても警報が鳴るように出来るのだが、現時点では建物の中に居れば大丈夫だろうとそちらはつけていない。
「ケレナ、試すのに使える仔犬たちがいるのってどこ〜?」
シャルロが声を上げる。
今日はケレナの実家にある牧場(?)の一角に来ている。
ここで馬や鷹とかを育てて訓練しているらしいが、ついでに猟犬も育てているとの話なので、逃げないように魔具を使うことを考えている仔犬もいると聞いたのだが。
「こっちよ~!」
右側の方にある建物の方からケレナの声が聞こえた。
厩の一角にでもいるかと思っていたのだが、普通の人間用の建物の方だな?
猟犬って馬よりも扱いがペット寄りなのか。
まあ、馬は溺愛されていても家の中に入れるには大きすぎるし、排泄の躾が出来ない(多分?)から厩一択なのだろう。
声がした方に行ったら、どうやら犬用の部屋が複数ある建物の一角に、仔犬用の部屋がある様子だった。
マジかぁ。
犬用の建物なのか、ここ??
2階建てだから上の階には使用人とかが住んでいるのかもだけど。
はっきり言って、盗賊時代の俺の寝床にしていた場所よりもずっといいぞ?!
そうか、貴族の厩にでも寝床を設置すれば良かったんだな。
仕事の際にお邪魔することが多い場所だったから、逃げなきゃいけない場所という認識があったからそこを寝床にしようとは思わなかったが、今から思うと下町の地下室なんかよりも呑気な貴族の厩の方が安全かつ環境も良かったな。
流石に犬用の建物は犬に吠えられそうだから多分ダメだったとは思うが。
今も、建物の中にいる犬が何匹か、こちらをじっと注視している。
ケレナが何か吠えないように命令を出したんだろうなぁ。
仔犬たちの方は呑気にじゃれあっているけど。
「この箱の中から抜け出さないようにして欲しいのよ」
ケレナが4ハド四方ぐらいの箱を1ハドの高さで切ったような感じの箱を示しながら言った。中で仔犬が母犬に戯れながらわちゃわちゃしている。
そっか、母犬が出入りできるように、あまり高すぎるとダメなのか。
「おっと、ちょっと高さ制限を変更するね」
シャルロが言って、魔術回路を修正した。
一応これは3段階調整できるようにしてあるから、1ハドから3ハドまではその場で変更できる。
それこそ母犬の体の上をよじ登ったら仔犬が1ハドの壁なんぞあっさり乗り越えられそうだが、その際に警報が鳴ったらびっくりして諦めてくれる……かな?
音が鳴るだけで何も起きないと分かったら気にせずに乗り越えそうな気もするが。
ということで、箱の外側四隅に魔具を設置して、起動させる。
「……見ていると登らないねぇ」
暫くふにゃふにゃ遊んでいる仔犬たちを見つめたあと、シャルロが言った。
こいつら、幼いながらも箱から出ちゃいけないって分かっているんだな。
見られている間はいい子にしているなんて、ガキの癖に意外と賢いじゃないか。
「ちょっとあっちでお茶でもしてましょうか。
まだ隣の部屋の方までは見えていないというか気にしないのよね」
笑いながらケレナが言った。
すぐそばで見張られていたら悪戯はしないが、視界内にいても隣の部屋だと認識外扱いで無視して悪戯するのか。
遊びに来て見る分には微笑ましいが、育てている方にしてみれば気が抜けなくて大変なのかも?
そう考えると、この脱出探知用魔具は確かに需要がありそうだ。
生まれて直ぐな仔犬ってネズミとサイズが変わらないだろうと言う事で、サイズ指定は諦めました