1221 星暦558年 黄の月 1日 脱走防止
結局、俺とシェイラの間用の携帯版通信機を作るかどうかはまた後日考えようということになり、ツァレスにそれを渡すアイディアは『甘やかしたらきりがないから』ということで没になった。
まあ、確かにいい年した大人なんだし、自分の発掘隊に関するやらねばならない報告書とかの管理はリーダーであるツァレスがしっかりやるべきだよな。
自分で作成しないだけでなく、作成を頼むのすら忘れるのは流石にないだろう。
ツァレスが引退するまでシェイラがあいつの面倒を見続けるという訳ではないんだし、あまり至れり尽くせりに甘やかすのはツァレスの為にもならない。
俺とシェイラ用の通信機に関しては……発掘現場では邪魔されたくないし、街の宿に戻っているなら宿に連絡してくれれば良い。食事や買い物に出る際は重いから携帯用通信機を持ち歩くつもりは無いと言われたから、イマイチ作る必要も無いかな?って感じなんだけどね。
今みたいに休息日に気楽に会いに行ける間は要らないかな?
どこか別のもっと辺鄙な所にある遺跡担当になったら考えても良いかもだな。
それはさておき。
今日はいつも通り、次に何を開発しようかと工房でお茶を飲みながら3人で話し合っている。
「仔猫や仔犬の脱走探知用の魔具はあったらそれなりに売れるんじゃないかって。
ケレナが猫や犬を飼っているのは貴族や金持ちもしくはその使用人が多いから、魔具でも買う可能性は高いかもって言っていたし、是非とも欲しいんだって」
シャルロがクッキーの缶を棚から取り出しながら言った。
「なんだったら、脱走防止用に警報が鳴るよりも先に軽い衝撃を与えるようなのにするか?
それでも飛び出したら警報が鳴るようにしたら、逃げた仔猫や仔犬を探し回る手間が減ると思うんだが」
音が鳴って飼い主が止めにくるとなると、仔猫・子犬の性格によっては遊んで貰っていると思って喜ぶ可能性もないか?
「ついでに児童養護所とかで子供が抜けだした時に分かるように大型版も作るのもいいと思う。だが、流石に人間の子供相手に衝撃を与えるのはダメだから、別売りぐらいの方が良いんじゃないかな?」
アレクが指摘する。
「人間の子供こそ、やっちゃいけないと分かっているのに脱走するようなのは罰を受けるべきじゃないかと思うんだが。流石にそれは親が怒るか?」
禁じられたことをしたら痛い思いをするって小さいうちに覚える方が、人間としてまともに育ちそうな気もするが。
「流石に子供相手に痛みを与える魔具はダメだろう。
変な虐待だと言われたら困るし、何よりももしもの時にそれで子供が怪我したり変な後遺症を負うような状況になったら責任を取り切れない。
親が子供を痛みで閉じ込めるような状況を幇助するようなことも避けたいし」
アレクが首を横に振った。
あ~。
子供を閉じ込めるのなんて別に鍵があれば(なくても重い家具や箱程度でもいいんだが)十分可能だが、まあ見た目的には閉じ込めてないようにする虐待だってあり得なくはないか。
「そう考えると、別売りでも痛みを与えるようなのはダメだね。
じゃあ、軽く短時間だけ拘束するようなのにする?
動けなくなるのって子供も仔犬も仔猫も嫌がりそう」
シャルロが提案する。
「動けなくするよりも、こう、転ぶような感じで前に進めなくなるよう下向きに回すような動きは出来ないかな?
仔犬とか仔猫って団子みたいにまとまって積み上がることもありそうだから、変に拘束する効果があると危険かも?」
転んで前に進めない方がまだ安心そう?
「取り敢えず、ちょっとしたケージっぽいサイズで出たら警報が鳴る仕組みをまず作って、それに転ばすなり拘束するなりな効果を追加してどれが一番無難で経済的かを試してみるか。
ケレナのところに実験に付き合ってもらえるような仔猫か仔犬はいるのか?」
アレクが黒板にアイディアを書きながらシャルロに尋ねる。
「……聞いてみる。
あと、どのくらいのサイズの子供なり仔犬なりまでを押し留められたら良いのかも聞かないとね。
大型犬の仔犬なんかはあっという間に大きくなるし、それなりに力も強くなるから、どの位の力に対応できるようにして欲しいのかも要確認かも」
シャルロが応じた。
なるほど。
大型犬の仔犬って、サイズ的には小型犬の成犬に近いのに行動はやんちゃなガキって可能性は高そうだからな。
まあ、それを言うならちゃんと躾けていない小型犬なんかは老犬になっても命令をちゃんと聞かない馬鹿なのもいるようだが。
ちゃんと躾けない人間はペットを飼うのは禁じるって事にすれば良いのに。
貴族の夫人とかが飼ってるキャンキャン煩い小型犬が嫌いなウィルです。