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シーフな魔術師  作者: 極楽とんぼ
卒業後6年目
1219/1303

1219 星暦558年 緑の月 25日 事務作業(25)(第三者視点)

 >>>サイド キーナ・ペラッツ


 ペディアグナ(くそったれ)子爵の愛人をさせられていた自分を解放してくれたのに一役買ったらしき魔術師から、自分たちの工房で事務職員をやらないかと誘われてから、ほぼ5月経った。


 なんだって魔術師が裏社会に喧嘩を売ったペディアグナ(馬鹿)子爵の検挙に参加していたのかは結局教えてもらえなかった。が、自分がペディアグナ(ろくでなし)子爵の悪事には参画していなかったのは証明されて解放されたのはいいものの、故郷に帰るのも難しくこれは別の男の愛人か娼婦になるしかないかと頭を抱えていたところでまともな職業につけそうな話が来たのは、本当に嬉しかった。


 子爵が捕まってから就職先を探そうとしたのだが、働き口が多いと言われる王都でも紹介してもらえる伝手がなくても就ける仕事なんて酒場のメイド程度だった。下手に見た目が良い若い女だと、家族や地域の支えがなければそんなところで働いていたら店に来た金持ちの愛人になるか、押しの強い客に負けて不特定多数(もしくは店の固定客)相手に体を売る羽目になるのは目に見えていた。


 愛人にさせられてから、甘ったるい声で頼み込んで読み書きと計算を教わることに成功したというのに、それを活かして働けないというのは中々想定外な障害だった。


 自分の窮地を知ってか仕事の誘いが来たのはそれはそれで怪しいとは思ったが、選択肢はなかったので比較的まともそうだし金があって無理やり女を手籠めしなくても済みそうな若い魔術師を信頼することにして付いていった先が、シェフィート商会だった。


 そこで働けというのではなく働き方を教わる為に連れて行かれたのだが、今ではシェフィート商会で働かないかとまで言われるぐらいに信頼してもらえるようになった。


 まあ、そうはいっても最初に手を差し伸べてくれた魔術師たちは多分事務職員を探しているのだし、守ってくれる伝手のいない自分にとっては一か所で働いて下手に周囲からやっかみを買うのも面倒だしということで、現時点では数日おきに派遣される事務員として働くことにしている。


「こちらの棚が契約書類、こちらが会計関係の書類、あとこの引き出しに未処理な支出の領収書が入れてある。

 今年度の会計書類と最終締結まで行っていない交渉中の契約書類は机の上のここにおいてくれ」

 アレク・シェフィートがキーナたち3人に事務作業用の部屋の説明をしている。


 最初は三月おきに三人で職場を移動しようという話になっていたのだが、子供の病気などで突発的に休むことも多いだろうピュリスも参加したことから、キーナ3日、ピュリス2日と1日休み、ジュディナ3日という順番で3か所の職場を交代しつつ回ることになった。


 各自がやった作業は最終日に帰る前に引き継ぎノートへ書き込み、翌日に来た人間がそれに目を通して何をやったのか、何がまだ残っているのかを確認したうえで各職場の上司に何か指示に変更があるかを確認して働く。


 既に別の工房2つでは働き始めていたのだが、この魔術師たちの工房は作業部屋の準備に時間がかかるということで待っている間はシェフィート商会で手伝いをしていたのだが……。


 なんとも立派な作業部屋が出来上がっていた。

 1階のリビングの隣にあり、大きな窓が庭を望んでいる。これは普通だったらダイニングルームとして使う部屋ではないだろうか?

 壁紙や床のフローリングもかなり高級なものを使っているようだし。


「昼食はパディン夫人が出すから、外に食べに行きたかったら朝のうちに言っておいてね。

 喉が渇いたらお茶は自分で適当に淹れて?

 全部食べるのは遠慮してほしいけど、ちょっとしたお茶うけにそこの缶に入っているクッキーを食べてもいいよ」

 シャルロと名乗られて品のよさそうな青年が付け加える。


「王都から村への馬車が朝晩出ているからそれで通えると思うが、直接馬に乗ってくるならば厩を使ってくれて構わない。

 ユニコーンや土竜ジャイアント・モールが中に居る時もあるが、俺たちの使い魔なんで気にしないでくれ。

 馬との相性も悪くないから大丈夫だ」

 キーナに最初に声を掛けてきたウィルという魔術師が更に説明する。


 ユニコーン。

 ……あれって純潔な乙女が好きという伝説だったが、使い魔としてだったら男でも大丈夫なのか。


「ちなみにユニコーンの角に触れても折ってその破片を飲み込んでも特に健康上の効果はない。

 薬草に関する知識が豊富なだけで、体の部位に即効的な治療効果はないから変なちょっかいは出さないように。

 私の使い魔に手を出して蹴られた場合は紹介状なしでクビにする。

 撫でたりブラッシングをしたい程度だったら声を掛けて尋ねれば首を振って嫌か否かを知らせてくれるから、勝手に手を出さないように」

 アレク氏がちょっと厳しめに宣言した。


 流石に女性だったら馬並みのサイズがある(と思われる)ユニコーンに襲い掛かって角を折ろうとするのは無理があるが、純潔な乙女なら大丈夫とか思って暴走する可能性があると思われたのだろうか?


 ジュディナは知らないが、少なくとも自分は『純潔な乙女』ではないので最初から触れようとするつもりはなかったが。


 ちょっと変わった職場だが、それなりに働きやすそう?

 少なくとも設備的には一番良い。

 クビにならぬよう、頑張ってしっかり働こう。


馬って意外と大きいですよねぇ

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― 新着の感想 ―
>クッキーを食べてもいいよ 食べ始めたら無くなるまで止められないかも
馬と言っても種類がありますからねぇ。 一般的に想像する馬だとサラブレッドですが…500キロ前後。 いわゆる道産子が最大400キロぐらい で、輓馬等の重種が1トン前後。 どの馬も体重を賄うためによく食べ…
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