1217 星暦558年 緑の月 20日 事務作業(23)
「これが新しいダイニングルームなのね。
2階って珍しいけど、意外と外の景色が奇麗でいいわね」
2階のダイニングルームを見せたシェイラが感心したように周囲を見回していった。
「そうよね~。
空と野原が遠くに見えて、良い感じよね!」
ケレナがダイニングテーブルの椅子を引き出して座ってみながら合意する。
見渡す限り庭園とでも言う様な貴族のお屋敷ならまだしも、普通の家だったら1階だと庭を囲む様にある程度の生垣があり、外から直接覗き込めないように窓の位置も少し高めになっている。
だが2階ならば道や近所の家からは見えなくても外の景色は見えるぐらいの高さに窓枠を設置してあるから、特に村の端になっている北側はそれなりに奇麗な景色が見える。
2階の部屋は寝室だったから部屋に入ったらそのままベッド直行で寝ることが多かったから今まで景色なんて気にしてなかったんだけど、意外とそれなりに見えるんだよね。
ある意味、3階の使用人部屋は更に景色がよさそうだが、俺の寝室と同じで部屋に行ったら寝るだけで、あまりその景色が活用されなそうだ。
現時点では住み込みの使用人が居ないから要らない家具の物置的にしか使われてないし。
そう考えると、それこそ寝たきりな老人用に昇降機で老人でも3階に簡単に上がれるようにして、寝室をそっちに設置して周囲の風景を楽しめるようにするのが一番の景色の利用法な気もする。
まあ、景色を楽しむよりももっと長く自分の権力を握り続けようとする老害が多いらしいから、うっかり昇降機を普及させると問題ありそうなんだろうが。
ある意味、寝たきりなんだったら一度運び込む時だけ下男にでも背負わせて運べばいいんだよね。
ちょっと威厳に欠けるが、一度ぐらいなら人目を避けてやったっていいだろう。
階段を降りて来れない方が、寝たきり老人が家族の生活に邪魔して来なくて丁度いいかも?
2階の寝室に老人を押し込む場合は、下に降りてくるなと言う願いもあるのかもだが。
シェイラの王都内の部屋だって3階にあるからそれなり高いんだが、周囲にも同じかそれ以上の高さの建物があるから窓の外を見ても同じような建物とか他の建物の屋根が見えるだけで、大して感心するような借景にならないんだよな。
都会の外だからこその、高い位置にある部屋の利点だな。
「で、こちらがキッチンワゴンを運べる昇降機。
廊下側でも開けられるから病気になって部屋でスープでも食べるなんてことになったらそっちの方にも運べるんだ」
完成したばかりの昇降機の扉を見せて説明する。
悪戯予防として昇降機が来ていない時に扉を開けるには上の方につけてあるロックを外さないと開けられない仕組みになっている。今回は普通に開けられるように昇降機を上に呼び出してあったから、扉を開けたら中に突っ込んであるキッチンワゴンがお目見えした。
「そういえば、これが生き物が入ったらわかる警報器つきなんだったけ?」
シェイラがそう言いながらぐいっと扉の中に体を乗り出してみた。
プ~!
さっそく警報器が鳴る。
おいおい。
まあ良いんだけどさ。
「それって子猫ぐらいのサイズ以上だったら使えるんだっけ?
これって中に入るんじゃなくて、どこかから出ようとしたら警報が鳴るようにもできるかしら?」
ケレナがシャルロに尋ねる。
「う~ん?
まあ、入っている区画の外を囲むように防犯結界を展開する形にすれば、入る時じゃなくて出るときに鳴るようにするのは可能だとおもうよ?」
シャルロがちょっと首を傾げてから応じた。
「時々歩き始めたばかりの仔猫とか仔犬が行方不明になって大騒ぎになることがあるのよねぇ。
そろそろ動き始めるかもぐらいの時期に、そういう警報器があると安心かも」
ケレナが言った。
おや?
猫や犬を育ててるのか?
馬とか鷹が専門だと思ったんだが。
馬は基本的に生まれて直ぐぐらいに立ち上がって母馬の後をついて歩くって話だと聞いた気がするから動いても良いんだろうが、考えてみたら犬とか猫って生まれて直ぐは動かないのかな?
まあ、動くにしても箱にでも入れておけば登れないか。
団子みたいに積みあがったら登って出てきちまうかもだが。
そういう時用に警報器が欲しいのかもな。
仔猫も仔犬も魔具より安い気がするが。
まあ、愛情だよな、金銭価値じゃなくて。
ちょっと関係ない考察ばかり?