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シーフな魔術師  作者: 極楽とんぼ
卒業後6年目
1212/1303

1212 星暦558年 緑の月 10日 事務作業(18)

「あら、デルニッヒ工房との共同開発にするの?」

 昨晩は遅かったので、ゆっくりと起きて朝昼兼用の食事をのんびりと食べながらシェイラに昇降機に関して話したら、ちょっと驚いた顔をされた。


「お、あのおっさんを知ってるのか?

 挨拶と契約だけに来たのかと思ったら、なんか色々と気になるのか俺たちの工房に毎日来ているんだ」

 最初に来た職人が担当になるのかと思ったのだが、魔具を昇降機に組み込むというのが面白いと感じたのか、昨日も一昨日も朝からずっと来ていたんだよね、あの親方。工房の方は大丈夫なんかね?


「ちょっと高いけど、しっかりとした昇降機だったらあそこよね。

 その代わり拘りが強いから、あちこち削って安上がりにしようとする交渉は頑として断るんで予算が厳しい時は使えないけど」

 シェイラが言った。


 へぇぇ。

 値下げ交渉に応じないなんて、中々強気だね。

 まあ、それだけ品質に拘りと誇りを持っているってやつなんだろうな。

 ある意味、そんな工房の親方が俺たちの魔術回路に夢中になっているというのは……ちょっと擽ったい気もする。


「結局、どんな感じにしたの?」

 シェイラが聞いてきた。


「子供やペットが隠れたら困るから、猫以上のサイズの生き物が中に入ったら警報音が鳴るようにしたのが新しい機能かな。

 後は引っ張る人間の筋肉代わりに魔術回路で動かすだけだ。

 あまり機能を増やしすぎても高くなるだけだろうという結論になってね」

 デルニッヒの親方は色々な機能を試してみたいらしかったが、どれもこれも出来ないことはなくても必要なのか?って話し合いをした結果やめるという結果になっている。


 なんかこう、新しいオモチャを色々と試したがっている子供みたいなんだよなぁ、あのおっさん。

 この場合、俺らがオモチャなんだが。

 まあ、まだ現時点では色々と考えるのは面白いから付き合っているが、明日以降も色々と結局は使わない機能に関して色々と提案してくるんだったらちょっと考えなきゃだけどね。


「安全装置もなし?

 人間は乗せないって路線で行くのね?

 ……足腰が動かない老人が動き回りやすいような道具は作らない方が無難という説もあるものねぇ」

 シェイラが言った。

 どうやら老害をのさばらせる期間を延ばす魔具は危険だという点はシェイラも認識しているらしい。


「ある意味、金ががっつりある老人相手だったら、それこそ浮く台車の仕組みを変更して宙に浮く椅子を作ってそれを簡単に動かせるようにするっていうのも可能だな~って思ったんだけど、階段を登れないんだったら意味がないだろうし、階段を登れるようにしちまったらやっぱり恨まれる可能性が高いだろうなってことで次の商品開発の候補からも外したんだ」

 浮かすっていう魔術回路を使うんだったら別に垂直にだけ動かす必要はないよな~って親方たちが帰った後にお茶を飲みながら3人で話していたんだが、一台の椅子に色々と機能を付けるだけだったら昇降機よりも総額的には安上がりだし、ある意味金がある貴族や豪商の当主が簡単に入手できちまうから、作ったらマジで恨まれるかも?という結論に達したのだ。


 魔石の消費量的な心配としては昇降機の普及ほどは酷くはないだろうが、宙に浮く椅子で階段を克服できるようになったら工房側が人間用昇降機を作るのを止める理由もなくなっちまうし。


「あら、恨まれるのが怖いのに毒探知の魔具なんか作ったの、あなた達?」

 シェイラが笑いながら応じる。


「あれは人助けの為なの!

 というか、暗殺とか過敏反応で気軽に食事が出来ない人間を助けるのはいいと思うが、いつまでも権力にしがみつくジジイ達を助けるのにやりがいはないだろ?」

 魔術師だと『自力で階段を登る』という『自力』に魔術も含まれるせいで魔術院の長老タイプなんかにはかなりよぼよぼなジジイもいるんだけどね。


 とは言え魔術師は組織で偉そうなことを言っているよりも自分の研究に打ち込みたいタイプが多いから、アンディ曰くそこまで長老の座に対する競争も激しくないらしい。


「中々微妙なところねぇ。

 椅子を浮かせて動けるようにするなら、怪我とかで動きが取れなくなった人にとっても便利だと思う。

 でも怪我人は使えるけど老人は使えないなんて言う差別化は無理だろうから、例え怪我人用にという形でだろうと一度世に出しちゃったら一気に老人たちに広まるでしょうね」

 シェイラが言った。


 そうなんだよなぁ。

 動きが取れない怪我人にとってはあったら便利だとは思うんだが、考えてみたら怪我人ってあまり金がなさそうだから魔具なんぞ買う金はなさそうだし。

 戦争でも起きて軍人に怪我人が大量に出たら軍の方が補助金を出すかもだが。


 でもそれを見越して開発するのは意味がないだろう。

 と言う事で、没となったのだ。



普通に車輪で動く車椅子があるのか、不明……

精密で強い車輪の製造の難しさを宙に浮くと言う裏技で解決したいところですが、それやると老害ジジイ達に利用されちゃいそうなのがネックw

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実は特許と商標は違っていたりします。 特許は20年で満期で更新不可能ですが、商標は10年で満期ですが更新可能。 前者は普遍的な商品の技術開発の恩恵のためですが、後者はブランド的サービスの保証のためだそ…
ジュラルミン+反重力魔法陣はどうでしょう
難しい問題ですね。 塹壕戦のような「死傷者が万単位が当たり前」の戦争が起きれば違いますが。 多くても千単位の戦傷者に対して、どういうリハビリや装具や魔具が必要かという視点が必要になりますので。 で、そ…
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