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シーフな魔術師  作者: 極楽とんぼ
卒業後6年目
1201/1304

1201 星暦558年 萌黄の月 26日 事務作業(7)

「う~ん、もう寸胴鍋とか病気や怪我をした誰かを動かすって言うのは諦める?」


 ぎりぎりまで水を入れた、村の雑貨屋にあった一番大きな寸胴鍋(大体深さ2ハド(40センチ)、直径1.5ハド(30センチ)程度)を乗せて動かした試作品が、ギシギシと音を立ててゆっくり動いていたと思ったら、段々動きが不規則になり、止まっては動き止まっては動きと言う怪しい挙動をするようになったのを見て、シャルロがため息を吐きながら言った。


「人間を動かすのは諦めるにしても、大きな鍋一杯のスープを動かせないというのはどうなんだ?

 俺たちの家では別に構わないが、お屋敷とか倉庫で使う昇降機として売り出すなら寸胴鍋一杯の水程度は動かせなきゃダメだろ」

 まあ、思っていた以上に寸胴鍋一杯の水が重いんだけどな。


 確かめてみたら、なんと下手をしたら7歳ぐらいのガキと同じ程度の重さがあったのだ。

 ある意味、これを両手でだが持ち上げられる母親たちって凄いなと感心しちまったぜ。

 子供を持ち上げるのも、鍋を持ち上げるのも。


「と言うか、考えてみたら倉庫に設置する昇降機だったらキッチンワゴンよりも大きな物にするだろう。

 そう考えるともっと大きくて出力が強い物が必要だ。

 そちらは後回しにするとしても……やはり屋敷用でもせめて寸胴鍋1つ分はしっかり問題なく動かせるようにしないと、駄目じゃないか?

 場合によっては当主や客人の部屋に湯を持って行って湯浴み的に体を綺麗にする際に使う可能性があるから、寸胴鍋1つ分は最低限な機能だと思われる可能性が高いぞ」

 アレクが指摘する。


 あ~。

 この屋敷は一応浴室が1階の洗濯室の横にあってそこで風呂に入りたければ入れる形だが、屋敷共有の浴室がなく、各部屋に大きな桶を持ち込んで体を流して拭くとか、当主の部屋に浴室があってそこにお湯を手で持って行くとかなスタイルの屋敷もあるんだよな。

 風呂に関しては魔具を使うか人力でやるかは過去に魔具好きが居たか否かに掛かっているって感じでまちまちだ。


 下手をしたら魔具を使うよりも台所で一気にお湯を沸かして使用人に上まで持ってこさせる方が早く風呂の準備が出来るからなぁ。


 俺たちが魔術学院に設置したみたいに温泉を使った風呂だと話は別だが、あれは特殊な地域か、それこそ土竜ジャイアント・モールの使い魔持ちが居なければ厳しい。


「そっか、確かにそう考えると寸胴鍋1つ分位は余裕で動かせないとダメだねぇ。

 じゃあこの魔術回路じゃなくって、あっちの方が良いかな?

 低出力だったらこっちの方が魔力消費の効率は良いんだけど」

 溜め息を吐きながらシャルロが試作品を下へ戻し、魔術回路を設置した箱を開いた。


 上に動くか下に動くかの起動をちゃんと意図した通りにする仕組みはちゃんと出来たんだ。

 重量軽減も空滑機グライダーに使ったのをそのまま流用したけど特に問題は無かった。


 だけど残った重量を持ち上げる滑車の動きの魔術回路が微妙だった。

 洗濯用のローラーに使ったのを流用しようと思ったのだが、あれは重いのには向かない様なのだ。

 重量軽減の効果をもっと上げようとしたんだが、こっちもある程度以上の割合で上げようとするとがっつり魔力消費が跳ね上がるし。


 特許切れした鉱山とかで使っている滑車用の魔術回路を幾つか試したんだが、やっぱ出力があるのってそれだけ魔力が必要なんだよなぁ。


 残念なことに、出力が大きい魔術回路って何故か少量で使う際の魔力消費量でも軽いのしか動かせない魔術回路よりも多いのだ。


 なので何とか軽いのしか動かせない魔術回路を改造してもっと重いのを動かせないかと頑張ったのだが、こちらもがっつり重いのを動かせるように改造すると魔力消費量が跳ね上がってしまったので、跳ね上がる前ぎりぎりのレベルでどうにかならないかと試したのが、今回のガタガタ動きをする試作品なのだ。


「それと、考えてみたらこれってそれなりな重さを動かすとなったら上の滑車や扉の安全構造とかの強度もしっかり計算して十分に負荷に耐えられるようにしないとダメだな。

 そうなると、適当にそこら辺の大工にやって貰うんじゃなくって専門の工房を共同開発的な形で引き込む方が良いかも知れない」

 アレクが指摘した。


「あ~。

 まあ、考えてみたら昇降機の設置その物だってちゃんとした大工を雇わなきゃだめだしな。

 昇降機っぽい建築物内の設備の設置販売をやっている工房に声を掛けて共同開発として、販売とか設置もそっちに任せるか?」

 今迄の俺たちの魔具は基本的に魔具としての部分がメインだったからシェフィート商会に製造させる工房の手配から販売まで全部任せればよかったが、今回のは魔具部分だけじゃない外回りの方がある意味安全管理的には重要になりかねないからなぁ。


「オレファーニ家の王都宅の昇降機を設置した工房と、シェフィート商会が紹介してくれる工房と、両方に話を聞いてみて良さそうな方を使う?」

 シャルロが提案した。


 そうだな。

 一か所だけじゃなくって何か所か話を聞いた方が無難か。

 お人好しなシャルロがそんなことを言うのはちょっと意外だが。




魔具部分が完璧でも滑車を支える天井部分が抜けたりしたら大惨事ですからねぇ

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― 新着の感想 ―
巻き上げの出力が足りないなら箱側にも付けて動滑車にするか、変速噛ませて回転比変えるかになりそうだけど、思いつくかってなると微妙よね。 移動量を倍にすれば力は半分で済むのってどこで習ったり覚えたりしたか…
なんか動画で見た、ロンドンにあるセントパンクラス駅直結の使われなくなったホテルを思い出しました。 (今はリニューアルした新館が日本語で紹介されていますが) 何でも館内に水道管がなかったので、客室で使う…
昇降機の構造は既存の物を流用して 人力で動かしているのを魔具化すれば すぐ出来そうな気がするんですが
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