1200 星暦558年 萌黄の月 24日 事務作業(6)
近所の大工のおっさんに手伝ってもらい、先ずは2階のベランダの横に地面までの柱を4本(と補強材)を設置して貰った。
ちゃんと完成してサイズが分かるまでは家の床や壁に穴を開けたくないからな。
まずは試作品を庭からベランダに上げる形で作ることにしたのだ。
一々家の中を出入りするのが面倒なのでついでに梯子をベランダに固定してあるが、これは今回の開発が終わったらちゃんと退ける予定。
魔術師の家に盗みに入るアホな泥棒はいないと思うが、何も知らないバカの気を引いて、捕まえた泥棒を警備兵に突き出すのは面倒ではある。
勿論防御結界で俺ら以外の人間が触れられない様になっているが、結界その物へ十分に強い衝撃を与えれば無理やり壊す事も可能だ。
まあ、その前に俺たちが気付く筈だが。
それに態々結界で触れられない様になっている梯子なんぞ登らなくても、適当に壁の突っかかりとかを使えば十分に裏仕事に慣れた様な人間なら上に登れるんだけどね。
「これって本番の時は鉄板の箱に変えた方が良いかな? 」
大工のおっさんについでに作って貰った昇降機用の木箱をコンコンと叩きながらシャルロがちょっと首を傾げる。
「鉄板の方が丈夫だが、もしも中に子供が閉じ込められた状態で階と階の間で昇降機が止まってしまった場合、木材の方が板を何枚か剥して子供を助け出しやすいかも?」
アレクが指摘する。
「いや、食材を運んでいて何か零したりするかもだから、腐る可能性がある木材よりも鉄の板の方が無難じゃないか?
一枚の鉄板じゃなくて、3枚ぐらいのを下から補強材で支えた上でネジで固定するような形にしたら、もしもの時に子供を助け出すのも可能だろ」
それに子供がオシッコしちまった場合でも、木材よりは鉄板の方が綺麗に臭いも残らずに掃除できそうだし。
木材に尿が沁み込んじまったら、マジで板を取り換えない限り臭いが抜けないだろう。
「確かにね。
あと、子供が入って悪戯する可能性を排除できないなら、それこそ子供……じゃなくても誰かの体が入り口から入っている状態で昇降機の箱が動かない仕組みも必要だね」
シャルロが言った。
あ~。
流石に昇降機の入り口に寝転がる子供が居るとは思わんが、それこそ中のキッチンワゴンを取り出そうとしている時に上の鎖が切れて箱が突然落下したりしたら、腕を大怪我しかねないな。
何かを落として拾おうとして体の半分ぐらいを昇降機の中に入れていた時に箱が落ちたりしたら悲劇だ。
それに子供が何人かで昇降機の入り口付近で飛び跳ねて遊んでいて壊す可能性もあるし。
「扉を開けると、箱の横から棒が出て箱を壁に固定する用な仕組みにしたらどうかな?
そうしたら扉が開いている間は絶対に箱が落ちないだろう」
アレクが提案する。
「だったら箱から出るんじゃなくって、壁側から出るようにする方が箱が無駄に重くならなくて良いんじゃないか?」
多分修理もしやすくなるだろうし。
「そうだね~。
扉に連動して下からぐっと板か丈夫な棒が出て箱を支える感じにしたら良さそう。
そこら辺は魔具じゃなくって普通の仕組みで良いよね」
シャルロが賛成した。
確かに、普通の構造的な仕組みにすれば、例え設置した家が没落して魔石が無くなって筋肉で昇降機を動かすことになっても安全装置的な機能は残るな。
「そんじゃあ、取り敢えず箱に重量軽減の魔術回路を付けて、後は上に滑車を付けてそれを動かす魔術回路でもそっちに設置するか」
洗濯用魔具で使ったローラーを動かす魔術回路でも良いかもだな。
あれはちゃんと特許権が切れているしそれなりに動きに対する魔力消費が少ない。
まあ、洗濯用魔具だとあまり重量を掛からなかったから、成人男性を持ち上げられるような昇降機には向かないかもだが。
そうなったら鉱山とかで使っている滑車用の古いのを改造しよう。
「まずは何も入れずに試してみて、重さを足してどうなるか確認して行こうか」
シャルロが頷きながら魔術回路用の銅線を取り出してきた。
床板部分に重量軽減の魔術回路を付けた方が良いが、床部分だとそれこそ何かスープとかを零した時に魔術回路が破損しかねないな。
魔術回路だけ、鉄板の箱にでも入れるかね?
ベランダに付けた昇降機って2階のベランダに洗濯物を干す人には便利かもw




