120 星暦552年 藤の月 4日 新居
アファル王国において、基本的に土地と言うモノは王家、貴族もしくは神殿に属する。
土地を開発するにしても王家もしくは貴族がスポンサーとして金を出し、農民が開拓をする。
開拓に参加した農民はその土地を安い賃料で優先的に使う権利が得られ、この権利は子供へと相続されるが、売ることは出来ない。
ただし子供が複数いる場合は相続の際に一人にその使用権を集中させる代わりに他の子供が対価を受け取ることは可能だ。
開拓した農民が死に絶えたか自分から離れた土地の場合は、普通の小作を行うことになり地主にとってはその方が賃料はたくさん入る。
だから性悪な貴族や代官は態と税率を上げたり兵役を押し付けたりすることで開拓農民を追い出し小作農民を増やそうとする。
ま、これはやりすぎると民衆の不満が溜まって暴動を誘発したりするからバカな貴族しかやらないが。
当然王都の傍の土地は殆どが王家のモノだからそう言うことがされることは少ない。
王家の人間がちょっとした散策の際に通りがかるかもしれない場所で悪政をするほどアホな代官は長生きしないし、王都の周りで暴動が起きれば危険だからそれなりに王家の方も周りの代官の仕事ぶりに目を光らせている。
農業を営まない場合は土地を借りて商売をするなり住むなりする。
この借地は1年単位もしくは長期な物も可能だ。
シェフィート家のような豪商はそれこそ100年契約で土地を借りているらしい。
ま、長期にしようと思うとそれなりの出費が最初に必要だから3カ月から1年程度が一般的だ。
俺たちは・・・それなりにどっしり腰を落ち着けて働きたかったので5年契約でとりあえず土地を借りることにした。
そんでもって気にいったら延長できる権利付き。
こういう契約をする時にオレファーニの名は役に立つ。別に便宜を図ってはくれないが足元を見られず、不当な請求もされない。
まあ、シャルロ独りだったら騙されたかもしれないけど横にシェフィート家のアレクがいたし。
俺は単なるおまけ。
だから土地の貸借契約をシャルロとアレクがやっている間に俺はこれからの準備をしていた。
俺たちが選んだ土地は元々とある金持ち商人が持っていた屋敷らしい。それなりに広い舞踏室があったのでそれを工房として使うことにした。
敷地内にあった厩はそのままラフェーンやアスカの住処となる。ついでにシャルロの馬も置くつもりらしい。
俺は馬にはあまり乗りたくないから必要に応じて村で借りる予定。
一応急がないならアスカに乗って地下移動も可能だし。
どういう原理なのか分からないが、土の幻獣だけあってアスカの地下移動能力は高い。
土を掘っているはずなのに人間が歩くより早く移動できるし、俺を背中に乗せていたら俺の分のスペースも開けて地下を移動できる。
これで地面が陥没したりしないんだから、不思議だよなぁ。
『竜が空を泳ぐのと同じく土竜が土を泳ぐのに何の不思議がある?』と言われたけどやはり不思議だ。
まあ、あれだけ大きな体の竜が飛ぶのだって理不尽と言えば理不尽だからな。
全部幻獣の『魔法』と言うしかない。
流石に空を飛ぶドラゴンどころか走る馬よりも移動速度は遅い(歩いている馬とは同じ程度)ので急ぐ時の移動手段としては使えないが、いつでも俺を運ぶのは構わないと言ってくれたので急がない時は利用させてもらうつもりだ。
ダビーとアドバイザー契約(というか単なる守秘義務とアドバイス料を決めただけだけど)を結び、新居の場所を決め、土地貸借契約を準備し、魔術師認定試験を受け、卒業式に出席し・・・と年末は忙しかった。
お陰で寮は年末前に出たものの新居の準備が間に合わず、暫く俺は宿暮らしだった。
だが、やっと今日の契約が済んだらこっちに引越して来られる。
まだ色々足りないんだけど、他人の家に忍び込んでその屋根裏で寝ることもしばしばあった俺にしてみりゃ、暫く空き家だった家なんて全然許容範囲内。
アレクとシャルロも引越してくると言っている。中の準備が終わるまで待てと言っているんだけどねぇ。
俺が我慢できるからって自分も我慢できると思うのは無謀だと思うぞ・・・。