1194 星暦558年 萌黄の月 20日 後輩から相談(11)
「へぇぇ、薄暗い評判のある商会の娘って濡れ衣を着せられる危険性があるのねぇ。
そこまで評判が悪い事を考えると、息子に会頭の座を譲ってグレーなやり方は一新しましたって一生懸命言って回っているとはいえ、よくぞサリエル商会自体が生き残っているわよね」
休息日に久しぶりにシェイラに会って、この10日で何があったのか話していたら感心したような感想が返ってきた。
「親がヤバい事をやっていた時期にはまだガキで全く関与していなかったパルティアがそのせいで疑われるのは可哀想っちゃあ可哀想だが……まあ、ある意味兄貴の方は父親がやっていたことをある程度は分かっていたんだから苦労しても自業自得ってやつじゃないか?」
なんと言っても若いとは言え会頭としてそこそこ大きかった商会を引き継ぐだけの年齢と経験があったのだ。
つまりはヤバい悪事にそれなりに加担していたが、少なくとも見て見ぬふりぐらいはしただろう。
パルティアの方は親が猫かわいがりしていたらしいから、薄汚いやり方は一切見せずにいたかも知れないが。
「まあ、若い息子が商会を大きくして成功させている父親のやり方に反対するのは難しいから、自業自得とまで言うのはちょっと厳しいかも?
私の実家の商会だって、基本的に父のやり方を踏襲して当然って感じだからねぇ。父が後継者選びの為に自分で新しいやり方を切り開けって頑張って煽っても碌に変わろうとしなくて困っているぐらいだし」
シェイラが指摘した。
確かに、商会を大きくした成功経験を大切にする考え方っていうのは……一番上の会頭本人だけでなく、幹部クラスの古くからいて一緒に成功してきた従業員とかもそれを踏襲したがるんだろうなぁ。
それに競争相手を脅して引かせるとか、取引相手にちらりと危険性を匂わせて極端に取引条件を突き詰めない様にさせるとか。やっちゃいけない行為だが、やれたら楽ではあるだろう。
それでは客が逃げそうなものだが、逃げるなと暴力の脅しで引き留められるなら、ウハウハだ。
そんな取引方法に慣れていたら、真面な商売方法なんて面倒でやっていられなくなって商会で一丸になってどんどんより黒い灰色に突き進んでも不思議はない。
「そう考えるとパルティアが一番とばっちりを受けたと言えるかもな。
サリエル商会内部で頑張るんじゃなくて外で働くとなると、偏見とかそれこそ悪事の身代わりにしようと考える人間と直に付き合う羽目になるんだから」
「そうねぇ。
まあ、魔術師だったらいつでも辞められると思えるから、ある程度は気楽と言えば気楽なんじゃない?
終わりが見えない訳じゃなく、いつでも自分で選んだ時点でサリエル商会に行くなり、魔術院で仕事の斡旋を受けて若手魔術師として働くなり、選択肢はそれなりにあるんだから」
シェイラが肩を竦めた。
確かに。それに、苦労するだろう道を選んだのはパルティア本人だからな。
頑張れとしか言いようが無い。
「そう言えば、サリエル商会はどうなっているんだろ?
アレクやシェフィート商会の人間から特に何も聞かないから、以前みたいに喧嘩を売ってきてはいないんだろうが」
「取引をしたりするときに表に出るのは昔のやり方に殆ど関与していなかった若いのだけでして、裏の帳簿付けとか仕入れた商品の確認とかに昔からの従業員で残ったのが担当することで規模が小さくなっているけど何とか頑張っているみたいね。
そろそろ安定してきて、少しは商売を広げようと考えている頃かも?」
シェイラが教えてくれた。
良く知っているなぁ。
ある意味、セビウス氏が色々と知っているのはそれが彼のシェフィート商会内での職務みたいなもんだからそれ程不思議はないと思うんだが、考古学を主たる職業としているシェイラの場合だと、色んな情報を集めているのって完全に趣味の世界だよな?
親父さんが跡取りにしたいと未だに未練がましく言ってくる気持ちも分かるなぁ。
もっと年がいっていたら、跡取りにちょくちょくヤバくなったら助言してくれる便利な長老的な存在として実家の商会へ関わるのもあるんかも知れないが、まだ跡取り世代と年齢が近すぎて、跡取りにならないのに役に立つ助言をしまくっていたら内部が纏まらなくて困るんだろう。
とは言え。
シェイラにとって面白いのは考古学なのだ。
しょうがないな。
趣味が幅広いシェイラさんw