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シーフな魔術師  作者: 極楽とんぼ
卒業後6年目
1190/1303

1190 星暦558年 萌黄の月 13~14日 後輩から相談(7)

パラパラと原稿(下書き?)を捲ってみたが、まだ結末まで辿り着いていない……どころか誰も死んでいない。


ざっと最初から飛ばし飛ばし読んでみたら、殺人があって第三者が犯人を推理するタイプではなく、如何に拗れた男女がお互いを殺そうと考えるに至って、どっちが殺すのに成功するか、そしてそれがバレずに済むのかという話らしい。

推理を楽しむ小説ではなく、男女の愛憎と完全犯罪を二人して追求している話か。


貴族とか豪商の夫婦で遺産目当てで相手を殺したいし離婚なんかできないって言う設定ならまだしも、比較的普通な商業ギルドの職員という話なんだが……もしかして誰か今の愛人に辿り着く前に付き合っていた女が居て、殺したいと思う程拗れたんかね?


普通の登場人物が主人公な小説の方が読者の共感を得られるのかも知れないが、もう少し金持ち層を主人公にした方が良いんじゃないかね?

やっぱ本を買ってのんびり読む暇があるのは貴族や豪商が多いと思うんだが。


自分が知っている階級の話じゃないと嘘くさ過ぎて話にならないと思ったのかも知れないが、横領男の書いている話自体もかなり嘘くさい。


と言うか、殺し合いを考えるまでに至る男と女の会話がやたらと大げさな話し方で現実味がないし、なんだってこれで殺そうという考えに至るのかも不明だ。


と言うか、大体殺そうと思ったらもっと簡単に殺せるぞ?

まあ、流石にそこに関しては商業ギルドのちょっと上の方の職員程度じゃあ知らないんかもだが、それこそ悪事に手を染めているんだから多少は裏社会の人間との伝手もあるだろうし、少しは下調べってことで話でも聞けばいいのに。


男と女の情念の絡みなんぞ俺には良く分からないから、もしかしたらこれを面白いと思う人間がいるかも知れないが……少なくとも商業ギルドをクビになった後に横領男が小説家として食っていくのはまず無理なんじゃないかな。


そう考えると、横領するならせめてその金を没収されない安全なところに隠しておけば良いのに。

使ってしまった物も没収されないが、あの愛人は恩を感じて後で面倒みてくれるタイプではなさそうだし、そんな経済力がありそうにも無かった。つまり今回の悪事が暴露されたら後は苦しいだけだ。


まあ、ある意味牢屋に突っ込まれたら飢え死にだけはしないが。


取り敢えず、この小説未満な原稿は元に戻しておき、裏帳簿は過去のページを何枚か抜き取ってから元に戻しておいた。


15日に事態が動くんだったらその前に裏帳簿が無くなっていたらパニックして逃げるとか、パルティアを嵌める証拠をでっち上げるかしかね無い。

横領男が過去の分まで定期的に見直すタイプだったら駄目だが、今日の行動を見る限り、小説未満を描くのに忙しくて裏帳簿は何かをやった時に書き足す程度ぐらいなようだ。


15日に横領男を告発したらその場で拘束し、同時にこちらを家探しして裏帳簿を確保させれば大丈夫だろう。

何らかの理由で横領男が裏帳簿を事前に破棄したり、誰か別の人間が持ち去ったりした時の為に数頁確保しておくが、多分必要にならないと思う。


少なくとも呑気に小説もどきを書いている時点で、自分の悪事がバレそうだとは思っていないだろう。


◆◆◆◆


「どうだった?」

横領男の家を調べたら翌日、朝食後に工房でアレクが聞いてきた。


「自宅の書斎の隠し金庫に裏帳簿があった。

何と本人は売れそうもない小説を頑張って書いていたよ。

もしかしたら隠し引き出しにあるその原稿を確保して、燃やすぞって脅したら大人しく色々と白状するかも?」

ああいう原稿って作家志望な人間にとっては重要……なんだよな?

多分?

もう一度書き直せば良いんじゃないかとも思うが。


というか、書き直した方がもう少しマシになるんじゃないか?


「作家希望なの??」

シャルロが目を丸くして尋ねてきた。


「何やら付き合っていた男と女の仲が拗れてお互いを殺そうと考えてぐだぐだやっている小説っぽい原稿を書いているから、願わくはいつか作家になりたいのかも?

まずは書き終われなきゃ駄目だし、俺としてはあれが本になっても買う気は起きないが」

紙とインクだってただじゃあないのだ。

牢屋に入ったらあの原稿を書き続けるのは無理だろうなぁ。


まあ、考えを練って頭の中でストーリーを完結させたら出所後にばっと書き上げられるかも?


「男と女の情念ねぇ。

あまり商業ギルドの横領なんぞやっている職員に縁がありそうな話じゃないが。

どうせだったら商業ギルドで横領しているのを見つける監察官の話でも書けばいいのに」

アレクが呟く。


まあ、確かにどういう状況でバレるかもって言うのを考えたらもう少し役に立つかもだが、バレないと思っているから横領なんてやっているんだろうからなぁ。

監察官がそれを暴くシナリオなんて考えられないんじゃないか?


そう考えると、小説家として想像力が足りないよな。


商業ギルドの内部の闇を暴露する話みたいの方が売れそうだけど、後が危険かなw

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― 新着の感想 ―
………ひねりが足りない上に、プロに渡したら原稿が真っ赤になりそうですねぇ。 (プロの方に「一応、書いたら添削したる」という、笑えない言葉をもらった人間としての本音) そして、自分の知識を基礎として書こ…
数年後、ベストセラーになるのであった?
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