1187 星暦558年 萌黄の月 12日 後輩から相談(4)
「パラティアに問題指摘の貢献を認められたいか否か、確認?」
アレクが実家の方に商業ギルドの着服問題に関して確認して貰いに帰った翌日、課題を伝えられた。
「ああ。
問題点を早く認識して、それをちゃんと報告するというのは優れた資質だ。
人に評価されるべきだし、広まればそれなりに将来的に商業ギルドでのキャリアに役に立つ可能性は高い」
アレクが指摘する。
「まあ、そうだよな。
実際に気付かない人間が殆どだったんだし、気付いた人間も面倒くさがって何もしなかったんだから」
利益を得ている人間が存在し、特に目に見えて誰かが極端に損をしている訳でないなら波を立てないでおこうと考える人間は多い。
面倒臭がりな人間も。
「着服で利益を得た人間が居たのだから、その流れを止めたら甘い汁の便益を享受していた人間から恨まれるのも事実だ。今回の着服で美味しい思いをしていた人間とか、単に他者が自分よりも評価されるのを嫌がるようなみみっちい人間とかに今後目の敵にされる可能性は高いだろう」
アレクが言った。
「確かに何か人より優れた資質を証明すると足を引っ張ろうとする人間は湧いてくるよな」
魔術師は組織内での地位よりも個人の能力や発明を重視する人間が多いのでそこまで酷くはないとは思うが、組織内での立場を重視する人間には自分より優れた奴らは単に運がいいだけだと僻むか、自分にとって邪魔だと排除しようとする者も多い。
「だから今回の問題に関して、パラティアは自分が問題を発見してしかるべき筋に報告したという流れにしたいのか、それともそこら辺は極僅かな人間以外には知られない様にして、自然な流れで着服が発覚したようにしたいのか、確認してくれって言われてね」
アレクが説明した。
「意外とパルティアって強いから、僻まれても気にしないんじゃないか?」
最初に出会った頃は色々と酷かったが、それを克服していく間にまともな形に強くなった。
「まあ、そうなんだが。
強かだからこそ、特に上層部に上り詰めようと思っている訳でもない組織で敵を増やす必要も無いと面倒くさがる可能性もあるだろう?」
アレクが指摘する。
「確かに魔術師が商業ギルドで偉くなるって無さそうだもんねぇ。
そうなると将来的にサリエル商会の一部として動くか、魔術師として完全に独立して働くんだとしたら商業ギルドに敵視する人間がいると面倒かも?
商業ギルド外に出るなら出来る人間っていう評価をギルドから貰っていても大して役に立たないのに、敵視する人間がギルド内にいると何かを頼む手続きとかで足を引っ張られそう」
横で聞いていたシャルロが頷いた。
うわぁ。
なんかこう、そう言うのを聞くとますます組織内での着服とかを態々指摘するのが面倒になるな。
「分かった、聞いてくるよ。
ちなみに何日ぐらいで商業ギルド側の誰かに問題を報告できるようになりそうなんだ?」
一応それが一番パルティアが知りたい事だろうから、面倒な質問をする際にせめてその答えだけでも貰っておきたい。
「多分3日程度かな。
裏帳簿があるなら見つけておいてくれる方が、変に誰かへ濡れ衣が着せられなくて良いと思う」
アレクが言った。
「了解~」
◆◆◆◆
と言う事で、急遽昼食に会う約束をパルティアに連絡して取りつけ、会いにいた。
「あと3日程度で誰に報告しても大丈夫か、見極めが終わりそうだってさ。
だからそれまでに裏帳簿が見つけられそうなら見つけておいた方が良いそうだ。
ちなみに、パルティアは自分が問題を見つけ出して報告した人間だと公表したい?それとも隠しておきたいと思っているのか?
公表したらそれなりに出来る女って評価されるかもだけど、代わりに美味しい思いをしていた人間から恨まれたり、他の有象無象からやっかれるかもなんだが」
以前アンディに教わった、商業ギルドからちょっと歩くけどそこそこ美味しい食事処で待ち合わせてパルティアに尋ねる。
「……恨まれるのはまだしも、有象無象からやっかまれるのは面倒ですね。
ですがなんと言ってもサリエル家の人間なので、ここで問題の発覚に貢献したとはっきり公表しないと、私も加担していて上手い事家の人間を使って関与を握りつぶしたんだろうと言われると思います」
パルティアがため息を吐きながら応じた。
なる程。
確かにサリエル商会は一時期はほぼ真っ黒なグレーだったからなぁ。
ヤバい悪事に伝手がありそうだから、そっちを使って悪事を主導していたとか、邪魔な人間を黙らせたと噂される可能性は高いか。
「下手をしたら着服していた人間に身代わりに使われるかもしれないな。
そう考えると公表する方が良いか。
ちなみに裏帳簿は見つかりそうか?」
無かったら探すのを手伝った方が良いかも?
少なくとも愛人宅とかに隠してあったら忍び込んで確保するのはパルティアには厳しいだろう。
「ウチの部署内を虱潰しに探しているのですが、まだ見つかっていません。
部長の家とかを探すのを、お願いしても良いですか?」
パルティアがパンを手に取りながら頼んできた。
「おう。
ついでにいるんだったら愛人宅も調べておくよ」
悪事をして金を増やした連中ってほぼ確実に妻以外の女に金を使ってるんだよなぁ。
離縁しないぐらい妻に利用価値があると思っているんだったら、もっと妻を大切にすればいいのに。
浮気は男の甲斐だと思わないウィル君w
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カクヨムで書いていた『子爵家三男だけど王位継承権持ってます』の番外編を書き足しました。
良かったら読んでみてください。
https://kakuyomu.jp/works/16818023211694735678