1181 星暦558年 萌黄の月 1日 海に落ちたら(23)
「シェイラがこれって軍艦とか交易船に便乗する役人とかにも売れるじゃないかって言ってた。
あと思ったんだけど、川で流されても危険だろうから渡河用魔具を買った連中にも勧めてみたらどうかな?」
休息日明けに工房でいつもの朝のお茶を飲みながら、シャルロとアレクに救命チョーカーの売り込み先について提案する。
もう俺たちが改造しなきゃいけない部分はほぼ終わったから、後の売り込みはシェフィート商会任せなんだが、売り上げに応じて俺たちの取り分も変わるから販売戦略について提案できることは提案して損はないだろう。
「ああ、確かにな。
父に渡河用魔具の追加商品で取り扱いを始めましたと購入先や商業ギルドの貸し出し部に提案してはどうか言っておくよ」
アレクが頷きながら言った。
そう言えば、渡河用魔具ってそれなりに高いから小規模隊商や商会では購入ではなく必要に応じて商業ギルドから借りてるんだっけ。
救命チョーカーも一緒に借りれば十分だよな。
山や野原を移動する間は溺死防止用の道具は必要ない。四六時中必要もないのに首の周りに何かを巻いておくのってウザいし、汗で汚れが酷くなるだけだから、仕舞っておくだけなら必要な河岸の街で貸し出し手続きをする形の方が良いだろう。
「だったら、川とか海岸線沿いの堤防とか橋の修理とかの工事の際の工夫や現場監督に貸し出すのも良いかも?
ああいうのってそれなりに事故で水に落ちて溺れる人間がいるらしいからね。
安全対策がしっかりできてるって分かったら人集めが楽になって費用削減になるかも?」
シャルロが提案した。
なる程。
堤防はまだしも、橋を渡す時なんかは川のど真ん中で作業をしなくちゃならないんだから、一応溺れない様に色々と手は打つんだろうが予算が厳しかったら危険度が上がりそうだからな。
もっとも、予算が厳しかったら魔具を手配できるかどうかは怪しいが。
まあ、予算が厳しくなくても流れが急だったり幅が広い河なんかの橋関連の工事だったら危険性が高いんだろうから万が一落ちても溺れない様にするのは重要だろう。
「そっかぁ。
そうなると国土省とかに売り込む方が良いかも?
貴族の領地内での作業だったら領主が采配するからこっちは商業ギルド経由で話を流してもらう必要がありそうだけど」
シャルロが言った。
へぇぇ?
橋とか治水工事って貴族の領地内だったら領主が采配するのか。
まあ、国防に関係するような主要街道の橋とかだったら国も首を突っ込んでくるんだろうが。
「川での工事とかだったら、落ちて流されてもすぐ分かるように、それこそあのトランペットの音を記録させた非常音用魔具を水没したら起動する感じで付けたらどうかな?」
耳元で鳴ったらめっちゃ煩いだろうが、命には変えられないだろう。
「どうせだったら狼煙みたいのが上がるように出来ないかな?
それなりに目立つだろうし、場所を辿ってどこに流れ着いたか探しやすいかも?」
シャルロが提案する。
「軍事用の発煙筒みたいのを組み込めないか、相談してみるのも良いかもな。
軍事用じゃなくても隊商なんかでも発煙筒があるならそっちを使う方が手軽かも知れない」
アレクが頷く。
「濡れても大丈夫なのが無いか、確認だな」
あとは……雨の中でも見えるような発煙筒ってあるんかね?
雨だろうと発煙筒で何かを知らせる必要がある時は必要だと思うが、あれって発『煙』筒って言うだけあって火をつけて煙を出すんだよな?
雨の中じゃあ直接濡れてなくても湿気ていて着火しにくそうだし、川に落ちた時に使えるかは微妙な気がするが。
「良いのが無かったら、それこそそう言う魔具を発明してもいいかも?
濡れても使えるとなったら歓迎されそうだ」
まあ、雨が降っていると視界がかなり狭くなるからたとえ発煙出来ても見える範囲がかなり狭まるが。
「もしくは日中はちゃんと探せるだろうってことで夜になったら光る魔具なんかでも良いが……いや、考えてみたら夜は動くのが危険だから救助活動も止まるか」
アレクが提案しかけて気を変えた。
つうか、考えてみたら救命チョーカーのクッションってどのくらいの時間膨らみ続けているかのテストをしていなかったな。
海で船から落ちたんだったら、1刻程度で拾い上げて貰えなかったら諦めるべきだろって感じで1刻しか確認していないが……2昼夜ぐらい分、確認すべきか。
海に落ちたら2昼夜で拾ってもらえなかったら脱水症状で助からんだろう。
まあ、川を流されてだったら頭を打って意識を失っていても1日もたてば意識が戻るか、それこそ半日程度でどっかの岸に流れ着いているだろうけど。
冬だったら低体温症で、夏だったら暑さで脱水症状で二日もせずにダウンしちゃいそうな気もしますけど、暑さに関しては海水が体温を下げてくれるのかな?