117 星暦551年 桃の月 15日 乾燥
卒業までに出来れば次の工房・住居の場所を決めたい。
また、今回は双方の腕試しのようなモノでもあるから、あまり真剣に時間とエネルギーをかけるのも勿体ない。
ということで色々なアイディアを話し合い、手間のかかりそうな部分をガシガシ削った結果、乾燥機を造ろうと言うことになった。
最初は火事や火傷の心配が無い安全な暖房器具というアイディアから出ていたのだが、ある意味そう言ったモノってそれ程目新しさが無い。
それこそ、暖炉に子供避けの柵を造れば大体同じような結果を得られるんだから。
ま、工夫は色々出来るけどさ。
目新しさが欲しかった為、少しアイディアを捻って濡れた服を急いで乾かすのに便利な道具を造ろうと言うことになった。
しかも構造を単純にして安価な商品にする為、温風を出して乾かすと言うモノ。
そんでもって夏に使わなければいけないとき用に、温風ではなく単に送風するだけの設定も可能。
ある意味、送風機としても使える優れものだ。(笑)
「ある程度以上の熱に晒されたら熱源を止めて温風から普通の送風に変えるのは良いが、温度が下がったらまた温風に戻るようにするべきだろう」
色々話し合いながら造ってきた乾燥機を眺めながらアレクが指摘した。
最初は単に熱源と送風機を合わせただけの乾燥機だったのだが、色々アイディアを話し合っている間に大分変わってきた。
まず、同じ場所だけ乾かしてもしょうがないので一定の範囲内を動くように送風機の頭が回るように造り、送風する際の抵抗力を使って勝手に自動的に動くようにした。
暑い時期に温風なんて出てきたら堪らない!というシャルロの指摘に応じて熱源だけ別にスイッチを切れるようにもした。
火事を起こさない様に、器具の温度がある程度以上熱くなったら自動的に熱源を切るようにした方がいいと言うアレクの指摘で吸熱の術回路と魔力の漏電をスイッチ代わりに使う構造も付け加えた。
で、実際に洋服の直ぐ傍に置いて動かし、暑くなりすぎた際に熱源のスイッチが切れることは確認できたのだが・・・。
切ったスイッチを入れ直すと言うのは難しい。
「熱く『ない』という負の状態でスイッチを入らせるのは難しいな・・・」
思わず大分形が出来あがってきた器具を睨んでしまう。
「じゃあ、熱いと熱源との接続を妨害するという形にしてみる?」
シャルロが提案した。
ふむ。
それだったら熱が下がったらまた接続が元に戻って温風が復活することになる。
「術回路を繋ぐ銅線が熱を加えた状態だと浮くという形にするか。そうすれば、熱くない状態なら術回路がちゃんと繋がっているから温風になる」
うむうむ、大分良い感じに出来あがってきたぞ~。
これなら次の休養日までにちゃんと形になっていそうだな。
しっかし。
これってどうせなら皆に使わせて問題ないか試してみたいところだ。
だけど、公表してアイディアの特許登録を抜け駆けされたりしたら困る。
アイディアを特許登録した後に皆に試してもらうかね?
時間が無駄な気がするが。
後から修正した分のアイディアは既に申し込んでおいた特許では守れない。
問題の修正点も保護したかったらまた別に特許申請をしなければならないから面倒だ。
誰に真似されてもかまわなかった学生時代と比べ、日常の糧を稼ぐ手段だと思うと色々心配事が増えるな・・・。
現実は厳しいですねぇ。